●パウエル議長ら複数の常任メンバーは従来通りハト派的な見解だが、ウォラー理事はややタカ派的。
●来年のFOMCで投票権を持つブラード総裁とローゼングレン総裁は、来年終盤での利上げに言及。
●総じてタカ派的見解が目立ち始めているが、金融正常化のペースは、常任メンバーの見解が重要。
パウエル議長ら複数の常任メンバーは従来通りハト派的な見解だが、ウォラー理事はややタカ派的
今回のレポートでは、米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーの最近の発言を整理し、金融政策の正常化に対する見解を確認します。まず注目すべきはFOMCの常任メンバーの発言です。常任メンバーは、議長、副議長を含む理事7人とニューヨーク連銀総裁の計8人で構成され、FOMCで常に投票権を持ちます。6月のFOMC(15日、16日開催)以降の発言をまとめると、図表の通りになります。
パウエル議長は従来通りのハト派スタンスに変化はなく、ニューヨーク連銀のウイリアムズ総裁とボウマン理事は、基本的にパウエル議長と同じスタンスと考えられます。また、クオールズ理事兼金融規制担当副議長も、インフレは一時的との見方を示しています。これに対し、ウォラー理事は、量的緩和の縮小(テーパリング)について早期実施の可能性を示唆するなど、ややタカ派的な姿勢がうかがえます。
来年のFOMCで投票権を持つブラード総裁とローゼングレン総裁は、来年終盤での利上げに言及
常任メンバーについては、今後、クラリダ副議長とブレイナード理事の発言が待たれます。なお、市場の関心は現在、テーパリングの開始時期から利上げの開始時期へ移行したとみられます。そのため、来年の利上げ有無を見極める上で、次に注目すべきは来年のFOMCで投票権を持つ地区連銀(クリーブランド、ボストン、セントルイス、カンザスシティ)の総裁の発言です。
最近、市場を驚かせたのは、ハト派とされてきたセントルイス連銀のブラード総裁が来年終盤の利上げ開始を予測していると述べ、タカ派に転じたことです。また、ボストン連銀のローゼングレン総裁も、来年の終わりに利上げの基準を満たしても驚かないと発言しています。一方、クリーブランド連銀のメスター総裁は、利上げ時期に関する明確な言及はなく、雇用について、向こう数カ月の伸びを確認したいとしています。
総じてタカ派的見解が目立ち始めているが、金融正常化のペースは、常任メンバーの見解が重要
そして、再来年のFOMCで投票権を持つ地区連銀(シカゴ、フィラデルフィア、ダラス、ミネアポリス)の総裁発言をみると、ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁は2023年もゼロ金利維持の姿勢ですが、ダラス連銀のカプラン総裁は2022年に最初の利上げを予想しています。また、フィラデルフィア連銀のハーカー総裁は、6月のFOMC以前から、テーパリングに関する議論を早めに始めるべきだとの見解を示していました。
このように、改めて最近のFOMCメンバーの発言を整理すると、やはりタカ派的な見解が目立ち始めていることが分かります。米金融政策の正常化ペースを見極めるには、引き続きFOMC常任メンバーの発言に特に注意が必要ですが、今年の10月にはクオールズ理事兼金融規制担当副議長、来年1月にはクラリダ副議長、2月にはパウエル議長が、それぞれ任期を迎えるため、再任されなかった場合の後任人事も要注目です。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『最近のFOMCメンバー発言を整理する』を参照)。
(2021年6月30日)
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト