米テーパリングに対し過度な警戒が不要な理由とは?

本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「市川レポート」を転載したものです。

 

●量的緩和で供給された流動性はリバースレポで吸収、米短期金融市場は極端なカネ余り状態に。

●リバースレポの取引額急増は、MMFがマイナス利回りの回避に、リバースレポを選好したことが主因。

●テーパリングへの警戒はみられるが、前回よりカネ余りの度合いは非常に強く、過度な警戒は不要。

量的緩和で供給された流動性はリバースレポで吸収、米短期金融市場は極端なカネ余り状態に

米国ではこのところ、「リバースレポ」の取引額が急増しています(図表1)。

 

(注)データは2021年1月4日から7月2日。 (出所)Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表1]リバースレポの取引額(2021年以降) (注)データは2021年1月4日から7月2日。
(出所)Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

 

リバースレポとは、米連邦準備制度理事会(FRB)が実施している金融調整手段の1つであり、FRBは債券などを担保に民間金融機関から資金を借り入れます。期間が1営業日の翌日物リバースレポは2013年から毎日実施されており、金融システム全体でみた場合、短期金融市場の資金がFRBに吸い上げられる形となります。

 

6月30日に実施された翌日物リバースレポの落札額は9,919億ドルと、約1兆ドルに達しました。なお、FRBは量的緩和政策により、国債と住宅ローン担保証券(MBS)の保有を、毎月少なくとも、それぞれ800億ドル、400億ドル増やしています。つまり、巨額の資金が量的緩和で供給されながらも、翌日物リバースレポで吸収されていることから、短期金融市場は極端な「カネ余り状態」と考えられます。

リバースレポの取引額急増は、MMFがマイナス利回りの回避に、リバースレポを選好したことが主因

リバースレポを積極的に利用しているのは、マネー・マーケット・ファンド(MMF)などです。MMFは短期国債や、民間の企業、銀行が発行するコマーシャル・ペーパー(CP)などを投資対象としています。米国の家計にとって、MMFは銀行預金の代替先として定着しており、民間企業や銀行はCP発行を通じ、安定的な短期資金の調達が可能となります。このようにMMFは米国の金融システムにおいて非常に重要な役割を担っています。

 

しかしながら、昨年来のFRBによるゼロ金利政策により、MMFは運用難に直面しています。実際、手数料を免除しなければ、マイナス利回りに転じるケースもみられ、仮にマイナス利回りとなれば、MMFから資金が流出し、金融システムが動揺する恐れがあります。そのため、コストのかからないFRBによるリバースレポが運用手段として選好され、取引額の増加につながったと思われます。

テーパリングへの警戒はみられるが、前回よりカネ余りの度合いは非常に強く、過度な警戒は不要

翌日物リバースレポでは、FRBが資金を借り入れた民間金融機関に対し、利子を支払います。直近まで金利はゼロ%でしたが、先月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、0.05%に引き上げることを決定しました。これは、MMFの運用難をやわらげるための施策といえますが、そもそも運用難の背景には、米経済対策での家計向け支援により、家計の手元資金が膨らみ、余剰分がMMFに流入していることなどがあります。

 

なお、市場では量的緩和の縮小(テーパリング)を警戒する向きもみられますが、テーパリングは、国債などの買い入れ額の減額であり、買い入れ自体は当面続くため、カネ余り状態を解消するものではありません。また、翌日物リバースレポの取引額は、前回のテーパリング時(2014年1月から10月まで)の額を大きく上回っており(図表2)、カネ余りの度合いは強いため、今回のテーパリングに対し、過度な警戒は不要と考えます。

 

 (注)データは2013年9月23日から2021年7月2日。 (出所)Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表2]リバースレポの取引額(2013年以降)(注)データは2013年9月23日から2021年7月2日。
(出所)Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『米テーパリングに対し過度な警戒が不要な理由とは?』を参照)。

 

(2021年7月5日)

 

市川 雅浩

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフマーケットストラテジスト

三井住友DSアセットマネジメント株式会社 チーフマーケットストラテジスト

旧東京銀行(現、三菱UFJ銀行)で為替トレーディング業務、市場調査業務に従事した後、米系銀行で個人投資家向けに株式・債券・為替などの市場動向とグローバル経済の調査・情報発信を担当。
現在は、日米欧や新興国などの経済および金融市場の分析に携わり情報発信を行う。
著書に「為替相場の分析手法」(東洋経済新報社、2012/09)など。
CFA協会認定証券アナリスト、国際公認投資アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員。

著者紹介

投資情報グループは、運用や調査経験豊富なプロフェッショナルを擁し、経済や金融市場について運用会社ならではの情報発信を行っています。幅広い投資家に良質な情報を伝えるべく、年間で約800本の金融市場・経済レポートの発行の他、YouTube等の動画、Twitterでの情報発信を行っています。

著者紹介

連載【市川雅浩・チーフマーケットストラテジスト】マーケットレポート/三井住友DSアセットマネジメント

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