本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「市川レポート」を転載したものです。

 

●米早期利上げ懸念が強まった先週、リスクオフの円高は、ドル円ではなくクロス円で顕著にみられた。

●これは単に計算上の話で、ドル円動かずユーロドル変動ならば、ユーロ円の変動幅はドル円より大。

●ユーロなどに比べ円は取引材料に乏しいことも一因で、クロス円の変動幅は当面大きいままとみる。

米早期利上げ懸念が強まった先週、リスクオフの円高は、ドル円ではなくクロス円で顕著にみられた

一般に、ユーロ円、豪ドル円、ポンド円など、米ドル以外の通貨と日本円のペアを「クロス円」といいます。このクロス円については、このところ変動幅がドル円よりも大きくなっています。例えば、6月11日から18日までの1週間で、ユーロ円は2円4銭、豪ドル円は2円10銭、ポンド円は2円50銭、円高方向に動きました(図表1)。変化率は、それぞれ-1.5%、-2.5%、-1.6%です。

 

(注)色付きの数字は、ドル円、ユーロ円、豪ドル円、ポンド円の変化幅と変化率。変化幅と変化率のマイナスは、対円では円高方向、対米ドルではドル高方向を示す。(出所)Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表1]ドル円とクロス円の変化幅と変化率(注)色付きの数字は、ドル円、ユーロ円、豪ドル円、ポンド円の変化幅と変化率。
変化幅と変化率のマイナスは、対円では円高方向、対米ドルではドル高方向を示す。
(出所)Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

 

これに対し、同期間におけるドル円の変動幅は、円安方向に55銭、変化率は0.5%に止まっています。先週は15日、16日に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)を経て、米早期利上げ懸念が市場に広がりましたが、いわゆるリスクオフ(回避)の円高の動きは、ドル円よりもクロス円で顕著にみられたことになります。そこで今回のレポートでは、その理由について考えます。

これは単に計算上の話で、ドル円動かずユーロドル変動ならば、ユーロ円の変動幅はドル円より大

まず、1つの理由として、クロス円の算出方法が影響したと考えられます。ユーロ、豪ドル、ポンドは「掛け算通貨」といわれ、各通貨の対米ドル為替レートと、ドル円の為替レートを掛け合わせることによって、クロス円の為替レートが算出されます。例えば、図表1の6月11日におけるユーロ円は、1ユーロ=1.2109ドルと、1ドル=109円66銭を掛け合わせた、1ユーロ=132円79銭となります。

 

6月18日に、ドル円は109円66銭から円安方向へ55銭動き110円21銭、ユーロドルは1.2109ドルからユーロ安方向へ0.0245ドル動き1.1864ドルとなっています。ユーロ円はこれらを掛け合わせて130円75銭となるので、円高方向へ2円4銭動いたことになります。つまり、ドル円が小動きでも、ユーロドルが大きく変動すれば、単に「計算上」、ユーロ円の変動幅はドル円より大きくなります。

ユーロなどに比べ円は取引材料に乏しいことも一因で、クロス円の変動幅は当面大きいままとみる

豪ドル円、ポンド円についても同様です。ドル円が小動きであった一方、豪ドルやポンドの対米ドルレートが大きく動いたため、「計算上」、豪ドル円やポンド円の変動幅は、ドル円より大きくなります。では、そもそもなぜ、ドル円は小動きで、ユーロなどの対米ドルでの変動が大きいのでしょうか。実はこれも単純で、日本円は他の通貨に比べ材料が少なかったためであり、これが2つ目の理由と思われます。

 

4月以降、ユーロは欧州連合(EU)の復興基金への期待、ポンドは来年の利上げ観測、資源国通貨の豪ドルは世界的な景気回復見通しなどから、対米ドルで堅調に推移しました。先週はFOMCを機に、この流れが反転した一方、もともと動意の乏しいドル円は小動きにとどまりました(図表2)。日本円に積極的な取引材料が見当たらないなか、クロス円の変動幅がドル円を上回る状態は、しばらく続くことが予想されます。

 

(注)データは2021年3月31日から6月18日。(出所)Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表2]ユーロ、豪ドル、ポンド、円の対米ドルレート (注)データは2021年3月31日から6月18日。
(出所)Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『クロス円の変動幅がドル円より大きい理由』を参照)。

 

(2021年6月23日)

 

市川 雅浩

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフマーケットストラテジスト

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