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エルサルバドル:暗号資産ビットコインを法定通貨とする法案を可決
中米に位置するエルサルバドルは2021年6月8日に暗号資産(以前は仮想通貨)のビットコインを法定通貨にする法案を議会が賛成多数で可決しました。エルサルバドル国会によると、84票のうち62票が法案に賛成でした。
ビットコインを法定通貨として採用するのはエルサルバドルが世界で初と報道されています。法案は90日後に法制化され、通常の取引はビットコインでの支払いが可能となる運びです。また、規模など確認は必要ですが、ビットコインでの税金支払いが可能になるとの報道もあります。エルサルバドルの法定通貨は2001年から米ドルです。法制化後は、米ドルとビットコインが法定通貨として共存する見込みです。
どこに注目すべきか:ビットコイン、エルサルバドル、法定通貨
ビットコインなどに代表される暗号資産は、過去には仮想通貨と呼ばれていました。しかし、価格変動が大きく、取引目的も投機目的が主体であることなどから、通貨と区別するべきとして暗号資産と呼ばれることになりました。しかし、エルサルバドルはビットコインを法定通貨とする法案を可決しました。法制化の意味合いは大きいものの解決すべき問題は山積みと思われます。
まず、市場の反応を振り返ります。エルサルバドルがビットコインを法定通貨にするという報道を受けビットコイン価格に上昇も見られましたが、週末にはやや軟調な動きも見せています。法定通貨としての評価は分かれるうえ、エルサルバドルでの法定通貨の動きが他国へ拡がるかは不透明です。むしろ足元、ビットコイン市場が堅調なのは米電気自動車大手テスラのCEOであるイーロン・マスク氏が、13日に環境問題をクリアすればビットコインを決済に利用出来る可能性を示唆したことが大きいと見られます。ビットコインが同氏のコメントで左右される市場構造に変化はないようです(図表1参照)。
一方、エルサルバドルの債券市場はビットコインを法定通貨にするとの報道を受け軟調となりました。ビットコインを法定通貨にすることへの課題の多さが浮き彫りとなりました。
問題のひとつはエルサルバドルが抱える対外負債です。この返済には現在進行中の国際通貨基金(IMF)との融資交渉を進展させる必要がありますが、市場はIMFがビットコインを法定通貨とすることで金融システムが不安定になることがないか警戒していると思われます。このため、融資交渉が難航することも懸念されます。
ここで、エルサルバドルの経済状況などを振り返ります。エルサルバドルは、国民の7割が銀行口座を持たないといわれます。一方、GDP(国内総生産)の2割は海外からの送金に依存し、最近は依存の割合が高まっているようにも見えます(図表2参照)。
携帯電話などは幅広く普及する一方で、銀行口座を持たない国民に、送金の利便性を高めるという点でビットコインの法制化は妙案です。しかし、例えば税金をビットコインで受け取った場合、エルサルバドル財政はビットコインの価格変動リスクを負うなど財政の不安定化が想定されます。犯罪率も高い地域で、取引の透明性の確保も深刻な課題です。
格付け会社のムーディーズ・インベスターズ・サービスはエルサルバドルのビットコイン法制化がIMFの融資プログラムに悪影響を与えることを懸念しています。エルサルバドルはGDP対比で6%以上の資金不足に直面する中、IMFの融資が資金繰りの鍵と見られます。しかしIMFの広報は交渉中を繰り返すのみで、エルサルバドルからビットコインについて事前の相談があったかなどは不明です。仮に事前の連絡がなかったのであれば、IMFとの対話は厳しい交渉となることが想定されます。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『エルサルバドル、ビットコインを仮想の世界から法定通貨へ?』を参照)。
(2021年6月15日)
梅澤 利文
ピクテ投信投資顧問株式会社
運用・商品本部投資戦略部 ストラテジスト
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