マスコミ等でしばしば取り上げられる「所有者不明土地」の問題。朽ち果てた家屋、草木が茂る宅地のショッキングな画像を目にしたことのある方も多いと思います。国土交通省の調査によると、相続登記が行われず「所有者不明」となってしまった不動産(土地)の総面積は九州の面積(368万ha)を上回るとのこと。なぜそのような現象が発生してしまったのか、また、今後はどのようになっていくのか、その背景と展望を探ります。

所有権移転登記を「拒否する人」の背景

 

登記を行わない人のほとんどは、遺産相続で不動産を得た人たちです。

 

●不動産の所有権登記について知識がない人

司法書士に委託するという一般的な流れを知らないため、なんの手立てもしていない人です。こういった場合、登記簿の名義は被相続人(亡くなった親族)のまま放置されることになります。

 

●意図的に登記をしない人

不動産を相続することで固定資産税や都市計画税といった税金を請求されたり、荒れ果てた空き家や空き地の管理義務を負わされたくないと考える人もいます。やむを得ず相続を受け入れ、売却して負債を取り返そうにも、条件の悪い不動産にはなかなか買い手が付かないため、手間や税金がかかり続けます。こういった厄介な問題から逃れるため、相続不動産の所有権移転登記を行わないのです。

九州と同面積に膨れ上がった「所有者不明土地」

 

相続登記が行われない不動産は、長期間放置され続けるととで建物が朽ち、雑草や樹木が生い茂り、次第に周囲の敷地や道路まで浸食していきます。近隣住民は迷惑を被りますが、苦情をいいたくても土地所有者の居所・連絡先がわからないため、最終的には地域の自治体へと泣きつくことになります。

 

一方で自治体も、そういった不動産のせいでインフラ整備や防災対策といった公共事業の進行が滞るという問題を抱えています。例えば、道路拡張予定地の一部に所有者不明の土地があると収用の許可が取れないため、そこから先の工事が進められず、地域の環境整備に影響が出ているのです。

 

このように、相続人の親世代、すなわち被相続人が自ら所有する不動産の登記を行っていたとしても、相続人が所有権移転登記を行わなければ、登記名義は被相続人のまま、所有者がこの世に存在しない不動産となってしまいます。これが親世代一代だけならまだましなのですが、数代前の明治や大正の時代から登記が更新されていなかった場合もあり、逆にいうと、現代の相続人が所有権を主張することも難しくなります。

 

このように、登記を行わない・行えない不動産が増加した結果、全国各地、とくに地方の過疎地に空き家・空き地が増えてしまう事態となりました。国土交通省の調査によると、順当に相続登記が行われず「所有者不明」となってしまった不動産(土地)の総面積は九州の面積(368万ha)を若干上回る約410万haも存在し、その割合は登記不動産全体の約20%を占めているというから驚きです(「所有者不明土地の実態把握の状況について」)。

「所有者不明土地法」施行で何が変わるか?

 

相続登記がされていない土地、登記されていても所有者が直ちに判明しない、または判明していても連絡がつかない土地をどうにかしなければと、政府は「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(所有者不明土地法)」を施行しました。

 

この法律が制定されるまでには、国土交通省と法務省の切磋琢磨がありました。所有者不明土地の発生を抑えるためにはどのような手を打てばいいのか、適切に利用・管理するにはどのような仕組みが必要なのかについて議論が重ねられました。その結果、国や都道府県の公共事業や、自治体が地域住民のために建設する振興施設の用地として所有者不明土地を利用する場合の許可手続きが緩和されることになりました。

 

また、登記官が職権で「長期間相続登記がなされていない土地である」旨を登記簿に記録できるようになったり、荒れ果てた土地や建物の管理については自治体が家庭裁判所に対して財産管理人を付けるよう請求できるようになりました。

 

2023年度をめどに施行予定の「不動産所有権登記の義務化」

相続人は不動産の取得を知った3年以内に相続登記をしなければならず、これに違反した場合は10万円以下の過料が課されます(※相続人の負担にならないよう、登録免許税の費用負担を軽減、添付書類などを簡略化)。

登記名義人の住所等があった場合は2年以内に変更登記をしなければならず、これに違反した場合は5万円以下の過料が課されます。

 

これらの対象は相続不動産のみではありません。所有者の住所変更登記(登記名義人表示変更登記)に関しては投資用不動産においても行われていないケースが多く見受けられます。住所変更登記の費用は司法書士に依頼しても2万円前後ですので、5万円の過料を払うより安上がりです。

 

この流れについては、相続を予定している方々ばかりでなく、投資用不動産を保有している方、取得を考えている方も十分な注意が求められるといます。

 

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※本記事は、「ライフプランnavi」に掲載されたコラムを転載・再編集したものです。

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