●米10年国債利回りは、3月末に1.74%水準まで上昇も、その後は低下し直近では1.43%台に。
●4月以降の米長期金利低下時も米国株は上昇、リスクオフではない、米ドルは金利連動の動きに。
●資源も堅調、金融正常化はまだ先との見方で米実質金利が低下、リスク資産に心地よい環境に。
米10年国債利回りは、3月末に1.74%水準まで上昇も、その後は低下し直近では1.43%台に
米10年国債利回りは昨年末、0.91%水準(ニューヨーク市場取引終了時点、以下同じ)に位置していましたが、年明け以降、上昇傾向が鮮明となりました。年初を振り返ると、1月5日に米ジョージア州上院決選投票が行われ、大統領と上下両院を民主党が主導する「トリプルブルー」が成立しました。これを受け、市場ではバイデン政権が新たな追加経済対策を打ち出すとの見方が広がりました。
これに加え、米国では春先にかけてワクチンの接種が普及したことから、経済活動の正常化と一段の景気回復という期待が強まり、米10年国債利回りは3月31日に1.74%水準まで上昇しました。しかしながら、利回り上昇の動きはここでいったん休止となり、4月以降はゆっくりと水準を切り下げる展開となりました。米10年国債利回りは6月10日時点で1.43%台まで低下しています。
4月以降の米長期金利低下時も米国株は上昇、リスクオフではない、米ドルは金利連動の動きに
4月以降の米10年国債利回りの低下が、何を示唆しているのか、他の市場の動きを検証しながら考えてみます。まず、米主要株価指数に目を向けると、米長期金利上昇期間(2020年12月31日~2021年3月31日)と低下期間(2021年3月31日~6月10日)で、いずれも上昇し、4月以降にリスクオフ(回避)の動きはみられません。また、バリューは前者の期間で優位、グロースは後者の期間で優位となっています(図表)。
次に、米ドルの動きをみると、米長期金利上昇期間で、主要33通貨のうち、30通貨に対して上昇し、ほぼ「米ドル全面高」の展開となりました。この期間、対円では7円47銭程度ドル高・円安が進みました。一方、低下期間では主要33通貨のうち、29通貨に対して下落し、ほぼ「米ドル全面安」の展開となりました。この期間、対円では1円39銭程度ドル安・円高が進みました。このように、米ドルは米長期金利に連れた動きが確認できます。
資源も堅調、金融正常化はまだ先との見方で米実質金利が低下、リスク資産に心地よい環境に
さらに、資源価格の動きを検証すると、原油先物価格、鉄鉱石先物価格、ロンドン金属取引所(LME)で取引されている6種類の工業用金属で構成されるLMEX指数、トムソン・ロイター・コアコモディティーCRB指数は、米長期金利上昇期間と低下期間で、いずれも上昇していることが分かります。特に、原油先物価格を除き、米長期金利の低下期間において、一段と上昇しています。
改めて、米長期金利をみると、4月以降、期待インフレ率はほとんど変化していないため、米長期金利の低下は、ほぼ実質金利の低下によるものといえます。これは、「足元の米物価上昇は一時的」、「米テーパリングの開始はそれほど早いタイミングにはならない」という市場の見方を反映したものと推測されます。この点を踏まえると、リスク資産全般に心地よい市場環境が、しばらく続くことも考えられます。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『4月以降の米長期金利低下が示唆すること』を参照)。
(2021年6月11日)
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト