2025年には、日本企業全体の1/3にあたる127万社が「後継者不在」になると予想されています。会社を引き継ぐ人が見つからない場合、選択肢の一つとして考えられるのが「M&A(合併と買収)」です。今回は、「M&Aの価格」の決まり方について、株式会社WealthLead(ウェルスリード)代表取締役シニア・プライベートバンカーの濵島成士郎氏が解説します。

企業価値の評価方法には「3つのアプロ―チ」がある

それでは次に具体的な評価方法を見てみましょう。大きく分けて、コストアプローチ、マーケットアプローチ、インカムアプローチの3つがあります。それぞれ概要は【表1】の通りです。

 

【表1】企業価値の3つの評価方法

 

さらに、それぞれのメリットデメリットを整理しておきます。

 

【表2】企業価値の3つの評価方法のメリット・デメリット

中小企業のM&Aでよく使われる3つの具体的手法

中小企業のM&Aで比較的よく使われる方法を、具体的に説明していきます。

 

◆年買法(年倍法)

1つ目のコストアプローチの1つで、修正簿価純資産法にのれん代を足す方法です。大まかには以下のような手順で計算します。

 

① 貸借対照表の純資産を時価に引き直す

② 数年分の予想営業利益を時価純資産と合算する

 

シンプルでわかりやすく、広く使われる方法です。純資産を時価に引き直す際も、すべて計算し直すのではなく、土地や建物、有価証券等、含み損益が大きく、時価が入手しやすい項目のみ時価修正します。

 

また、予想営業利益は、過去数年の営業利益を、M&A後は不要となる役員報酬や節税のための保険料といった費用を調整して算出します。何年分の予想営業利益を乗せるかは様々ですが、3~5年分を乗せるケースが多いです。この数字がいわゆる「のれん代」ということになります。

 

◆EV/EBITDAマルチプル

2つ目のマーケットアプローチの1つで、類似する上場企業と比較して計算します。EV(Enterprise Value:事業価値)がEBITDAの何年分で賄えるかを表すものであり、簡易買収倍率とも呼ばれています。計算の手順は以下の通りです。

 

① 類似する上場会社を選定する

② 類似上場会社のEV/EBITDA倍率を計算する

③ 評価対象会社の財務数値を当てはめて算出する

 

類似する上場会社は複数選びます。対象会社とよく似ている上場会社があれば少数でもよいですが、似たような会社があまりない場合は、より多くの会社を選びます。

 

EVは、株式時価総額+ネット有利子負債(有利子負債-非事業用資産)で算出されます。EBITDAは「利払い前税引前償却前利益」のことですが、簡易的には営業利益+減価償却費で計算します。

 

こうして上場類似会社のEV/EBITDA倍率が算出されますので、あとは対象会社のEBITDAを掛けてネット有利負債を引くと、株式価値が算出されます。

 

さらに、対象会社は未上場ですので、上場企業とは違って株式の流動性はありません。したがって、その分を考慮してディスカウントします。これを「流動性ディスカウント」と呼び、6~7割で評価する場合が多いです。

 

◆DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)

3つ目のインカムアプローチの1つで、ディスカウント・キャッシュフロー法の略です。企業が将来獲得すると期待されるキャッシュフローの金額を現在価値に割り引いて、その合計額を企業価値とするもの。以下の手順で算出されます。

 

① 中期事業計画に基づくフリー・キャッシュフローの推定

② 割引率の算定

③ EVの算定と株主価値の算定

 

スタートアップやベンチャー企業ではよく使われる方法です。

 

中期事業計画は対象会社自身が策定しますので、計画に基づくキャッシュフローも対象会社が想定する数値です。また、割引率をどのように設定するかによっても結果的に評価額が大きく違ってきます。そういう意味では恣意的に算出することも可能ですし、客観性に課題があります。

 

反面、対象会社固有の状況を反映させることができるという面では有効な方法です。いずれにしても、その妥当性や実現可能性をしっかりと確認する必要があります。

 

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