鉱工業生産指数・前月比+2.5%と2ヵ月連続で上昇に
経済産業省の生産指数・基調判断は「生産は持ち直している」で据え置き
4~6月期は生産予測指数等から見て4四半期連続・前期比上昇の見込み
4月分一致CI前月差はプラスになり、基調判断は「改善」が継続
(鉱工業生産)
●鉱工業生産指数・4月分速報値・前月比は+2.5%と、2ヵ月連続で上昇した。季節調整値の水準は99.6で、新型コロナウイルス感染拡大前の20年1月の99.1を上回り、消費税率引き上げ前の19年9月の102.4以来の水準にまで回復した。前年同月比は+15.4%で2ヵ月連続の上昇となった。
●4月分鉱工業生産指数では、全体15業種のうち、12業種が前月比上昇、3業種が前月比低下となった。半導体不足の影響などから自動車工業等が低下に寄与したものの、設備投資の回復やIT関連需要の増加などから、汎用・業務用機械工業、電気・情報通信機械工業、生産用機械工業等が上昇に寄与した。
●経済産業省の基調判断は20年4月分・5月分で「総じてみれば、生産は急速に低下している」だったが、6月分で、「生産は下げ止まり、持ち直しの動きがみられる」に上方修正された。7月分で下げ止まりが外れ、「生産は持ち直しの動きがみられる」となった。8月分では、「生産は持ち直している」に上方修正された。その後、今回の21年4月分まで、「生産は持ち直している」で据え置きになっている。
●先月発表された製造工業予測指数4月分は前月比+8.4%上昇する見込みであった。過去のパターン等で製造工業予測指数を修正した経済産業省の機械的な補正値でみると、4月分の前月比は先行き試算値最頻値で+4.6%になる見込みである。90%の確率に収まる範囲は+2.8%~+6.4%の見込みであった。実際には、鉱工業生産指数の前月比が+2.5%の上昇になったが、これは製造工業予測指数や、試算値の下限をやや下回る伸び率である。
●4月分速報値の鉱工業出荷指数は、前月比+2.6%と2ヵ月連続の上昇になった。前年同月比は+15.7%で2ヵ月連続の上昇となった。
●4月分速報値の鉱工業在庫指数は、前月比▲0.1%と2ヵ月ぶりの低下になった。前年同月比は▲9.8%と12ヵ月連続の低下となった。
●4月分速報値の鉱工業在庫率指数は、前月比▲1.8%で、3ヵ月ぶりの低下になった。前年同月比は▲21.5%と7ヵ月連続の低下となった。
●鉱工業全体の在庫循環の動きをチェックするために、縦軸に鉱工業在庫指数・前年比、横軸に鉱工業出荷指数前年比をとった在庫サイクル図をつくると、20年7~9月期までは「在庫調整局面」の状態にあったが、20年10~12月期、21年1~3月期では「意図せざる在庫減局面」になっていた。4月分では在庫の前年同月比▲9.8%、出荷が前年の反動もあり、前年同月比+15.7%と2ケタの伸び率になったので、「在庫積み増し局面」に入った。
●鉱工業生産指数の先行きを製造工業予測指数でみると4月分は前月比+8.4%の上昇、5月分は前月比▲4.3%の上昇の見込みである。過去のパターン等で製造工業予測指数を修正した経済産業省の機械的な補正値でみると、4月分の前月比は先行き試算値最頻値で+4.6%になる見込みである。90%の確率に収まる範囲は+2.8%~+6.4%になっている。
●先行きの鉱工業生産指数、5月分を先行き試算値最頻値前月比(▲2.5%)で延長したあと、6月分を製造工業予測指数前月比(+5.0%)で延長すると、4~6月期の前期比は+3.1%の上昇になる。また5月分・6月分を製造工業予測指数前月比(▲1.7、+5.0%)で延長すると、4~6月期の前期比は+3.6%の上昇になる。4~6月期は4四半期連続の前期比上昇が期待される状況だ。コロナ禍での自粛行動により個人消費が減少傾向で1~3月期のマイナス成長に続き、4~6月期も芳しくないと見られているGDP統計とは対照的な動きになりそうだ。
(4月分の景気動向指数・速報値予測)
●4月分の景気動向指数・速報値では、先行CIが前月差+0.1程度の上昇になると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列では、最終需要財在庫率指数(逆サイクル)、鉱工業生産財在庫率指数(逆サイクル)、日経商品指数、中小企業売上げ見通しDIの4系列が前月差プラス寄与に、新規求人数、新設住宅着工床面積、消費者態度指数、マネーストック、東証株価指数の5系列が前月差マイナス寄与になると予測した。
●4月分の一致CIは前月差+2.3程度の上昇になると予測する。速報値からデータが利用可能な8系列では、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・小売業、商業販売額指数・卸売業、輸出数量指数の6系列が前月差プラス寄与に、耐久消費財出荷指数、有効求人倍率の2系列が前月差マイナス寄与になると予測した。
●4月分で景気の基調判断は、景気拡張の可能性が高いことを示す「改善」継続となると予測する。仮に景気拡張の動きが足踏み状態になっている可能性が高いことを示す「足踏み」に下方修正される条件は「3ヵ月後方移動平均(前月差)の符号がマイナスに変化し、マイナス幅(1ヵ月、2ヵ月、または3ヵ月の累計)が1標準偏差分以上かつ当月の前月差の符号がマイナス」になることである。4月分は一致CIの前月差が上昇で、3ヵ月後方移動平均は10ヵ月連続して上昇する見込みなので、「改善」が維持されることになると予測する。コロナ禍でも、輸出、生産の底堅さなどから景気の基調はしっかりしていることを示唆しよう。
●4月分の先行DIは77.8%程度と景気判断の分岐点の50%を上回ると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列中、鉱工業生産財在庫率指数(逆サイクル)、新規求人数、新設住宅着工床面積、消費者態度指数、日経商品指数、東証株価指数、中小企業売上げ見通しDIの7系列がプラス符号に、最終需要財在庫率指数(逆サイクル)、マネーストックの2系列がマイナス符号になるとみた。
●4月分の一致DIは75.0%程度と景気判断の分岐点の50%を上回ると予測する。速報値からデータが利用可能な8系列中、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・小売業、商業販売額指数・卸売業、輸出数量指数の6系列がプラス符号に、耐久消費財出荷指数、有効求人倍率の2系列がマイナス符号になると予測した。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『2021年4月分鉱工業生産指数・速報値について』を参照)。
(2021年5月31日)
宅森 昭吉
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
理事・チーフエコノミスト