相続税や贈与税に関連する裁判では、該当の財産が贈与されたものといえるのか、そして誰に帰属するのかに焦点が当たります。実際の裁判例や裁決例から、贈与の意義について見ていきます。※本記事は、『相続税調査であわてない 「名義」財産の税務』(中央経済社)より抜粋・再編集したものです。

贈与税の納税義務について判示した裁決例

贈与税の納税義務について、裁判例では以下のとおり判示している(東京地裁平成21年4月24日判決・税資259号順号11190)。

 

「国税通則法15条2項5号は、贈与税の納税義務は、『贈与による財産の取得の時』に成立すると規定しており、単に贈与がされた時としていないのは、贈与税が、受贈者の担税力に着目して課される税であることから、受贈者が当該贈与によって現実に担税力を取得するに至った時、すなわち、本件のように書面によらない贈与の場合は、履行が完了し、受贈者が贈与された財産を、自己の財産として完全に支配管理し自由に処分することができる状態に至った時に納税義務が成立するとする趣旨であると解される。」

 

要するに、贈与税の納税義務の「成立」は国税通則法の規定に基づいて判断され、それによれば「贈与による財産の取得の時(通法15②五)」ということになるが、その趣旨は「贈与税が、受贈者の担税力に着目して課される税であることから、受贈者が当該贈与によって現実に担税力を取得するに至った時」に納税義務が成立するというものである。

贈与税の申告と贈与事実の存否

贈与税の申告があれば贈与があったものと取り扱われるのかどうかについては、裁決例では、基本的に考慮すべき事実の一つではあるものの、決定的なものでないとされる(国税不服審判所平成19年6月26日裁決・TAINSF0-3-218)。

 

「納税義務は各税法で定める課税要件を充足したときに、抽象的にかつ客観的に成立するとされ、贈与税の場合は、贈与による財産の取得の時に納税義務が成立する(通則法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第2項第5号)とされるが、この抽象的に成立した贈与税の納税義務は、納税者のする申告により納付すべき税額が確定(申告納税方式)し、具体的な債務となる。

このような申告事実と課税要件事実との関係については、『納税義務を負担するとして納税申告をしたならば、実体上の課税要件の充足を必要的前提要件とすることなく、その申告行為に租税債権関係に関する形成的効力が与えられ、税額の確定された具体的納税義務が成立するものと解せられる』(高松高裁昭和58年3月9日判決)と示されていることからすると、贈与税の申告は、贈与税額を具体的に確定させる効力は有するものの、それをもって必ずしも申告の前提となる課税要件の充足(贈与事実の存否)までも明らかにするものではないと解するのが相当である。

そうすると、贈与事実の存否の判断に当たって、贈与税の申告及び納税の事実は贈与事実を認定する上での一つの証拠とは認められるものの、贈与事実の存否は、飽くまでも具体的な事実関係を総合勘案して判断すべきと解するのが相当である。」

「本件については、請求人に係る平成6年分贈与税の申告書の提出があったことは推認されるものの、贈与税の申告事実をもって直ちに贈与事実があったとは認められないことに加え、贈与事実についての直接証拠は請求人の答述のみであることから、本件株式に係る贈与事実の存否については、具体的な事実関係を総合勘案して判断する必要があるところ、本件被相続人は、①本件株式の贈与において贈与者の立場である一方、受贈者の立場でもあったことから、本件被相続人は請求人のために株主として権利行使ができるよう取締役会の承認を得るべく働きかけるのが通常であるところ、そのような行動をとった事実は認められないこと、②本件被相続人はAの代表取締役としてAとBとの間で保証委託契約を締結したと認めれるところ、本件株券の発行時期と担保提供の時期とがほぼ同時期であることから、同契約の担保として本件株券をBに差し入れるために本件株券を発行したと認められ、かつ、同人は、Aの代表取締役の立場で上記担保提供の申入れを行うとともに、本件会社の株主であったことからして、同人は、どのような形で本件株券が発行されるか十分知りうる立場にあったにもかかわらず、本件株券の記名者及びその株式数について異議を申し立てたような事実は認められないこと、③平成11年分及び平成12年分の「財産及び債務の明細書」には本件株式の贈与がなかったとした場合の本件会社の株式数を記載していること、④Bから返還された本件株券の管理を行っていたことから、本件株式を自己の所有財産として認識した上で行動していたことがうかがわれる。」

無記名の「割引金融債券」の所有者は?

名義財産をめぐる贈与の有無に関しては、結局当該財産が誰に帰属するのかが問題となる。名義財産のうち無記名の割引金融債券の帰属については、裁決例では以下のとおり「証券を現実に占有し支配管理している者」に帰属するとしている(国税不服審判所平成18年12月22日裁決・TAINSF0-3-204)。

 

「『贈与による財産取得の時』とは、贈与税が贈与による財産権の移転すなわち財産の無償移転による受贈者の財産の増加に担税力を認めて課税される租税であることからすると、贈与により財産の移転が当事者間において確定的に行われたと認められる時、すなわち権利の移転の時をいうものと解される。

そして、無記名の割引金融債券の帰属については、証券に権利者の表示がないので、その購入資金の負担者及び証券の取得の状況、その後の証券の占有及び管理状況等の具体的事実を総合して判断するほかないが、特別な事情が認められない場合は、当該証券を現実に占有し支配管理している者がその所有者であると認めるのが相当である。」

 

 

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