こんな人材が日本にも欲しかった。オードリー・タン。2020年に全世界を襲った新型コロナウイルスの封じ込めに成功した台湾。その中心的な役割を担い、世界のメディアがいま、最も注目するデジタルテクノロジー界の異才が、コロナ対策成功の秘密、デジタルと民主主義、デジタルと教育、AIとイノベーション、そして日本へのメッセージを語る。本連載はオードリー・タン著『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)の一部を抜粋し、再編集したものです。

オープンソースは個人の基本的人権を認めていた

私がウィトゲンシュタインから影響を受けたのは、まず彼の言葉の使い方です。私は「言葉の使い方」について、その言葉がどんな意味を伝えるのか、一つの単語がいったいどのような意味を伝達するのかを、非常に厳格に捉えています。言葉の使い方次第で、まるで一つひとつの単語の概念がそれぞれの役割を変えていくかのように変わっていくからです。

 

そして、それらは論理関係を通じて連結しますが、この連結の方式もまた固定されているわけではありません。その時々の実際の状況に合わせ、まるで絵を描くように世界の真実の状態を反映させていきます。

 

これは論理的に示される「picture」のようなものです。文字どおり、写真と同じです。写真はその瞬間の一つの状態や一つの角度しか捉えることができませんが、少なくともその角度からは、見たものや考えていることをできるだけ正確に写し出すことができます。こうしたことを、私は『論理哲学論考』から学びました。

 

15歳で起業、18歳でアメリカに渡る

 

14歳で学校から離れた私は、自己学習を続けながら起業を目指しました。最初に起業をしたのは、15歳のときです。「資訊人文化事業公司」という出版社を創業し、自分で本を執筆して出版しました。その後、その会社は出版業からソフトウェアを開発する会社に変わりました。

 

私は会社のテクニカルディレクターになり、3分の1程度の株を持ちました(実際は15歳で株を保有することができないので、母が代わりに所有)。この会社から受け取った月給が、私が生まれて初めてもらった給料でした。確か月に5万台湾元だったと記憶しています。その後、その会社は海外に投資をしたりして国際展開も行いましたが、その頃、私は会社から離れていました。

 

18~19歳の頃にアメリカに渡り、シリコンバレーで起業しました。シリコンバレーでは当時、フリーソフトウェア運動から派生したオープンソース運動が始まっていました。オープンソースがフリーソフトウェアと違っていたのは、デジタル技術を用いる個人の基本的人権を認めていたことです。

 

両者は似通ったことを主張していましたが、オープンソースのポイントは「みんなで一緒にオープンの場で開発を進めていく」ことにあります。お互いの成果をシェアすることで、個人が必要とするコストは低下します。そのため、誰でも参加しやすかったのです。

 

私もオープンソース運動に参加しました。具体的には、運動の基本理念を中国語に訳して紹介したり、ネット上で呼びかけた参加者を説得して運動に参加させるような活動をしていました。

 

2001年から2002年にかけて、私が立ち上げたソフトウェア会社は「捜尋快手(FusionSearch)」という検索をアシストするソフトウェアを開発しました。このソフトは3~4年の間に全世界で約800万セット販売されました。当時、台湾の中央研究院(政府直属の学術機関)にも購入してもらい、フリーソフトウェアのファウンドリ(受託生産会社)となったのですが、今にして思えば、これは私にとって初めて政府と関わった仕事でした。

 

当時、これらの案件を担当していたのは、李徳財氏(計算幾何学が専門、元ノースウエスタン大学教授)や河建明氏(元中央研究院情報研究所副所長)といった先生方で、今も仕事を通じて連絡を取り合っています。

 

私がシリコンバレーにいたのは半年くらいでした。私の目的は運用のモデルを探すことだったので、そのモデルさえ見つけてしまえば、あとはどこにいるかは大して重要ではなかったのです。

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オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る

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オードリー・タン

プレジデント社

2020年に全世界を襲った新型コロナウイルス(COVID‐19)の封じ込めに、成功した台湾。その中心的な役割を担い、2020年新型コロナウイルス禍においてマスク在庫管理システムを構築、台湾での感染拡大防止に大きな貢献を果たす。…

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