お米の先物取引…リスク回避以外のメリットも
商品先物取引は証拠金という少額の資金で取引が可能です。
そのため、購入費用全額が必要となるのは決済期限である最終取引日(=納会日)が近くなってからです。そのため、購入費用のうち一部を半年間活用することもできます。なお、例1では、先物市場で買った米を、半年後に決済し、別途、米の現物を購入しています。
しかし、先物市場で買った米を決済せずに、購入総代金を支払い、現物を引き取る(=現受け)ことにより米を購入することもできます。
ヘッジ取引を「価格の固定化」という目的で使用する場合、先物市場における決済は、買ったものは売り決済、売ったものは買い決済する(これを「差金決済」といいます)だけではなく、買ったものは総代金を支払い、現物を引き取る、売ったものは現物を引き渡して総代金を受け取る(これを「受渡決済」といいます)ことにより決済する方法もあるのです。
つまり、商売の状況に応じて、決済方法を柔軟に選ぶことができるという特徴があります。
○売りヘッジ
「売りヘッジ」は、価格下落リスクに備えるものです。たとえば、将来、米の売却・販売を予定している時、今後の価格変動に関係なく、現在の価格で米を売却・販売したい場合や、保有している米の価格下落を回避したい場合などに用います。
米卸売業者のB社は、米1000俵の在庫を保有している。現在の米現物価格1万4200円/俵で販売できれば十分な利益を見込めるが、万が一、米価格が下落した場合、仕入れ価格を下回り、損失となる恐れがある。そこで、B社は米先物市場で在庫1000俵相当分を売り建て、「売りヘッジ」を行うことにした。
例2において、B社の収入は、米価格が上昇すれば増えます。一方、米価格が下落すれば減少し、場合によってはコスト割れとなってしまいます。そこで「売りヘッジ」の出番です。[図表3]のように、ヘッジ取引を行うことにより、米価格の上昇下落にかかわらず、B社は、米を1俵あたり1万4200円で販売することができました。
ヘッジ取引を行うことにより、米販売価格を1俵あたり1万4200円に「固定できた」といえます。たとえば、農家などの生産者が米の播種前契約を行う場合、価格・数量を事前契約すると同時に、コスト・利益を考慮した価格で、先物市場において「売りヘッジ」を行えば、価格の先行きを気にすることなく安心することができます。
なお、例2では、先物市場で売った米を、4カ月後に買い決済し、別途、米の現物を販売しています。しかし、先物市場で売った米を決済せずに、米の現物を引き渡して総代金を受け取ることもできます。
取引所における売買のため、相対で商売する時と異なり、相手方の信用状況や今後の関係を考えることなくドライに売ることができ、代金未回収の心配も不要です。代金回収リスクのない売り先が一つ増えたといえるでしょう。
例1と2では、ヘッジ取引を行うことにより、A社とB社はともに将来における米の価格変動リスクを回避できたことになります。半面、同時に価格変動による利益を享受する機会を失っています。
しかし、現時点で利益を確保し、将来の損失の恐れを排除することによって経営を安定させる、ということは農家などの生産者はもちろん、業者・経営者にとって非常に有益なことだといえるでしょう。
「ヘッジ取引」を行うことにより、将来の価格上昇・下落リスクに保険をかけたことと同様の効果が期待できるというわけです。
三次 理加
ファイナンシャルプランナー
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