子どもに「何かをやってほしい」とき…親はどうする?
まず前提として「やってもらう」ということは、自分で「やる」よりもはるかに難しく、「やって」と強く言えば済まされるものではありません。それはゲームの制作者が一番思い知らされています。安易に「やってみて」と上から目線でつくっても見向きもされません。
親御さんの力をもってすれば、お子さんに無理矢理やらせることは可能でしょう。ただし、それで「最後まで」やり遂げてくれるかどうかは疑問です。娯楽であるゲームでさえ、最後までやってもらうことは本当に大変なことだからです。
だからといって、お子さんに「やってほしい」○×を、やりやすいように簡単で無難に押さえておけばいいという話にも違和感を感じます。
親御さんが「やってほしい」と思うことの多くは、お子さんに持ってほしい「武器」に当たると考えます。その「武器」が無難になってしまえば、お子さんの将来に役立つとは考えにくいです。ここはしっかりと踏み込んでいきたいところです。
ただ、ゲームにも「やってもらう」手間があるので、「やってみたら面白い」タイトルが山ほどあります。つまりは、やってもらえずに埋もれていく「面白い」が数多くあるということです。
つくる側からすれば、「あれが売れないの?」と驚くことも多いです。親御さんの「やってほしい」○×もまた、いかにお子さんのためになる良いものであっても、やってみたら面白いことであったとしても、手を出して「面白い」を実感するまでは、お子さんはその良さを知りえないまま終わることになります。「面白い」をきちんと届けるためには、より的確に「やってもらう」側に伝えていく必要があるのです。
ゲームは「作品」ではなく「商品」
多種多様な娯楽のなかにある近年のゲームは、「良くできている」よりも、「面白い」かつ「売れる」商品を目指しています。それと、私のいたゲームの制作現場では、ゲームを「作品」とは言わず「商品」と言います。これもまた、きちんとお金を取れる魅力のあるものをつくるというプロ意識が強くなった表れとも言えます。
ひと昔前であれば、「良くできている」で売れたかもしれません。ただし、それはゲーム機本体の機能や性能の向上によって、見たことのない仕掛けや表現が増え、ゲームそのものへの新鮮な体験と「驚き」に届きやすかったからだったと思われます。
それを示すように、近年では大抵のことでは「驚き」につながらなくなり、「慣れ」に変わってくることが増えました。結果として、「良くできている」だけでは売れなくなったのです。
ですが、ポイントをきちんと押さえてつくっていれば、ゲームはまだまだ娯楽として戦えています。大事なことは、まず興味を持ってもらうこと。そして次に「夢中になれる」こと。そこに届くためにも「良くできてる」だけで良しとせず、「やってほしい」ことが「面白い」と思えるよう、着実に進めていく必要があります。
そのため、ゲームが「良くできている」で満足しないと同じように、親御さんの「やってほしい」も「将来のためになる」だけで良しとしないと考える必要があります。親御さんの考えの枠に囚われたまま進めてしまうことは、ゲームでいうところの「良くできている」ならば売れると妄信することと同じように感じてしまいます。
何となく「やってほしい」程度では…
そこで親御さんの枠を飛び越えて考える必要性が出てくるのですが、その必要性についての例を一つ挙げます。それは、世のなかは絶えず動いていて、自分の「子どものころにはなかった職業」が増え続けているという事実です。
世界の株式時価総額ベスト10の会社は、20年もすれば目まぐるしく入れ替わります。ゲーム制作もひと昔前では知られていない職業でした。お子さんが生まれてから成人になるころにも、親御さんが知らない職業は次々に増えていくでしょう。
厳しめに言うのであれば、親御さんが何となく「やってほしい」と思われている程度のことでは、将来に役立つ保証にはならないのです。だからといって、みなさんに受け入れてもらえるように無難におさめたり、オールマイティを目指してしまうと、「良くできている」の枠に落ちていき、記憶にも残らず終わってしまいます。
ゲームが「面白い」を目指すためには、まずその「強味」を理解し、「武器」や「売り」としてとがらせていく必要があります。これが核となる「コンセプト」の話につながります。お子さんにとって多方面で水準に達することよりも、多様性が受け入れられるこれからの時代に合わせて得意を伸ばしていくこと、それをトライすることには価値があると思います。
そのためにも、親御さんが自らの考えの「枠」を壊すなり越えて試していくことが、「やってほしい」○×をお子さんの「面白い」に近づける一歩になると考えます。
【ポイントまとめ】
ゲームも「良くできている」だけでは、お客さんに届かず、売れないまま終わっていく時代です。そのため、いまのゲームは「売れる」「面白い」にこだわります。「やってほしい」〇が、いかにお子さんの将来にとって大事なことか、やらせる側の親御さんがわかっていたとしても、お子さんに伝わらなければ、「良くできている」だけのゲームと変わりがありません。
「やってほしい」〇を夢中にさせるためにも、一般的とされている考えにこだわらず、「面白い」につながる仕掛けを試していきましょう。
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菱沼 寛章
1973年1月27日生まれ。宮城県仙台市出身。仙台第二高等学校卒業、明治大学理工学部電気電子工学科卒業。大学卒業後、スクウェア(現 株式会社スクウェア・エニックス)入社。ファイナルファンタジー、キングダムハーツなどの制作に関わり、2010年 任天堂株式会社に中途入社。スーパーマリオシリーズ、3タイトルなどに関わり、2019年までの22年間、ゲームプランナー業務に従事。現在もフリーランスで継続中。
【関わった主なゲーム】
ファイナルファンタジーⅧ、X、X―2、XⅢ
キングダムハーツ
進め!キノピオ隊長
スーパーマリオ3Dランド、3Dワールド 、スーパーマリオオデッセイ
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