コロナから回復したのに隔離?医師が「正しい」と考える理由

医師の判断には間違いのリスクがあります。そこで、間違えないことよりも「マシに間違える」よう考えます。心筋梗塞の疑いがある患者にとって、医師から家に帰され死亡するリスクと、一晩入院したが心筋梗塞ではなかったというケース、どちらがマシであるかは明白でしょう。コロナウイルスとの対峙時にも持つべき、この考え方について解説します。※本記事は、岩田健太郎氏の著書『僕が「PCR」原理主義に反対する理由』(集英社インターナショナル、2020年12月刊)より一部を抜粋・再編集したものです。

心筋梗塞?死亡するよりは「誤った入院」の方が好判断

新型コロナの第1波が来たとき、いくつかの病院で院内感染が起こりました。入院患者が亡くなったり、医療スタッフに感染が広がったり、あるいは院内感染が発生した病院が機能不全に陥ったりしたわけです。1つの病院が患者を受け入れられなくなれば、地域全体の医療が逼迫してしまいます。

 

だからこそ、ICUの患者さんの隔離解除には慎重のうえにも慎重を期さないといけないのです。

 

かりにその患者さんがすっかり回復していて、体内からウイルスがいなくなっていた場合、隔離を続けるのはもちろん誤った判断です。しかし、その誤った判断によって生じるダメージは(院内感染が起こることに比べれば)ずっとずっと小さい。

 

新型コロナの感染拡大時は1つの病院が患者を受け入れられなくなれば、地域全体の医療が逼迫するという。(※画像はイメージです/PIXTA)
新型コロナの感染拡大時は1つの病院が患者を受け入れられなくなれば、地域全体の医療が逼迫するという。(※画像はイメージです/PIXTA)

 

われわれ医者は「間違えないこと」よりも「マシに間違えること」を考えます。これもまた感染症にかぎった話ではありません。

 

たとえば、心筋梗塞の疑いがある人が病院に来たとき、その人を家に帰すかどうかという判断は、その人の生死に直結します。

 

ですから、その人が高齢者で、高血圧で、喫煙者で、「胸の前が押されるように痛い」と言っているのなら、つまり事前確率が高いのなら、入院してもらいます。心筋梗塞の検査は、結果が出るまでに一晩くらいかかりますから、ともかく入院してもらうわけです。

 

検査の結果が出て、心筋梗塞ではなかった場合、その人はムダな入院をしたことになります。「丸1日拘束されて、お金も余計にかかった。どうしてくれるんだ」と、その人は医者に文句を言うかもしれません。

 

しかし、それはたいしたダメージではありません。心筋梗塞の患者さんを誤って家に帰してしまえば、その患者さんが死んでしまうリスクがあるのですから。

 

つまり、間違えること自体は問題ではないのです。いい間違い方をすることが大事で、悪い間違い方だけはしないようにすればいい。

 

もちろん、検証は必要です。それは本当に正しい判断だったのかどうか、あとで正しく検証して、反省すべき点は反省し、改善すべき点は改善しなければいけない。しかし、判断を迫られているそのときは、100パーセント正しい選択肢が何かは分かりません。分からないからといって「1週間考えてから決断する」とか「来月まで決断を保留する」なんてこともできません。医者は臨床現場で、その瞬間その瞬間に判断をくり返していかなければならない。

 

だからこそ自分を常に疑い、「間違ってしまったときのダメージはどれくらいか」ということを考えるのです。

緊急事態宣言が早すぎた場合のダメージは「マシ」

新型コロナの特性は、その発生から1年以上経っている現在でも、分かっていないことのほうが多いのですが、第1波の結果分かったことがいくつかあります。その1つがロックダウン(都市封鎖)の効果です。2020年3月、イタリア、イギリス、フランス、スペインではロックダウンが行なわれました。

 

その時点ではロックダウンの効果はまったく分かっていませんでした。しかし、6月になってから感染者が劇的に減ったことが明らかになっています。日本では4月7日に緊急事態宣言が出て、安倍首相は「人との接触機会を7割から8割減らしてほしい」と国民に呼びかけました。

 

しかしその後の検証で、実は東京では3月下旬から感染者が減り始めていたことが分かりました。そして、それを根拠に「緊急事態宣言なんて必要なかった」という批判が、5月下旬あたりから出てきました。

 

そうした批判をすること自体を、僕は否定しません。けれども、4月上旬の東京で感染者数のピークが過ぎていたことは、そのときには分かっていませんでした。感染者がさらに増える恐れもあったし、だらだらと減っていくかもしれないという予測もあった。

 

実際はだらだらと減っていきました。4月7日に緊急事態宣言を出すくらいなら、そもそも出さないほうがよかったという意見も、1つの考え方ではあると思います。

 

しかし、それは未来を考えるときの材料にすべきではありません。ロックダウンのベストタイミングなんてその時点では誰にも分からないのですから、「危ない」と判断したらただちに実行すればいい。

 

別の言い方をすれば、そのときそのときでマシに間違えていけばいい。

 

緊急事態宣言を出すのが早すぎたら、「そんなものは必要なかった」という批判がたくさん出るかもしれません。緊急事態宣言が遅すぎれば、死なずにすんだ人がたくさん死ぬかもしれない。どちらがマシなのか。答えは言うまでもないでしょう。

 

前述のとおり、ロックダウンに大きな効果があることは、すでにイタリアやイギリスなどで行なわれた調査によって明らかになっているのです。したがって、今後もしも日本に危機的な状況がやって来たときは、ためらわずに緊急事態宣言を出すべきです。

 

緊急事態宣言を出したけれど、どうも感染拡大は起こっていないようだ――。そう判断したら、すみやかに解除すればいいのです。

 

そのときには当然批判が出るでしょう。「政府はムダに国民経済を停滞させた」という批判がメディアや野党から出る。しかしそれは、緊急事態宣言を出さなかったために感染者や死者が激増することに比べれば、ずっと小さなダメージです。そして短期間で解除した宣言の経済に与えるダメージも最小限に済みます。できるだけ正しく、けれども間違えたらすぐに認めて方向転換。これが大事です。

 

未知のウイルスと対峙しているときは、朝令暮改は批判されるべきではありません。間違いだと気づいたら、1分でも早く修正しなければならない。何より恐ろしいのは「自分は絶対に間違えない」という錯覚です。政治家や官僚にはどうかそのような錯覚に陥らないでほしいものです。

 

 

岩田 健太郎

神戸大学病院感染症内科 教授 

 

 

神戸大学病院感染症内科 教授

1971年島根県生まれ。島根医科大学(現・島根大学)卒業。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院を経て、2008年より神戸大学。神戸大学都市安全研究センター医療リスクマネジメント分野および医学研究科微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学病院感染症内科診療科長。著書に『「感染症パニック」を防げ! リスク・コミュニケーション入門』(光文社新書)、『感染症は実在しない』(インターナショナル新書)、『ぼくが見つけたいじめを克服する方法』(光文社新書)など多数。

著者紹介

連載感染症専門の内科医が「PCR」原理主義に反対する理由

僕が「PCR」原理主義に反対する理由 幻想と欲望のコロナウイルス

僕が「PCR」原理主義に反対する理由 幻想と欲望のコロナウイルス

岩田 健太郎

集英社インターナショナル

なぜ、ノーベル賞科学者でさえも「コロナウイルス」が分からないのか? その理由は日本人独特の「検査至上主義」にあった! 人間の体は宇宙よりも謎に満ちていて、素粒子よりも捉えがたい。そのことを知らないで、「机上の…

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