「居住用財産の特別控除」で変わる「譲渡税」
自宅を売却した場合の居住用財産の3,000万円特別控除(譲渡所得の計算上、3,000万円を経費に上乗せできる特例)の適用についても分割方法により相違があります。
Aさんが自宅を単独で相続してBさんに代償金を支払う場合、その資金を捻出するため自宅を売却すると、譲渡所得の計算上3,000万円を経費に上乗せすることができます。具体的な計算は次のとおりです。
売却額4,000万円-取得費200万円-譲渡費用200万円-特別控除3,000万円=600万円
譲渡所得600万円×20%=120万円→譲渡税
(注1) 取得費は概算取得費5%としています
(注2) 取得費加算、復興特別所得税は考慮していません
一方、換価分割をしていた場合の譲渡税は次のとおりです。
A 売却額2,000万円-取得費100万円-譲渡費用100万円-特別控除3,000万円<0円
∴譲渡税0円
B 売却額2,000万円-取得費100万円-譲渡費用100万円=1,800万円
譲渡所得1,800万円×20%=360万円→譲渡税
代償分割の場合はAさんに120万円の譲渡税、換価分割の場合はBさんに360万円の譲渡税の負担が生じます。
「代償分割」or「換価分割」…税務以外の判断要素
実務上、「代償分割」と「換価分割」の税負担が同じであれば、「代償分割」で進めたいというケースが多いように思われます。
主な理由は下記のとおりです。
・ 売主が一人のほうが、売却に伴う手続きが簡便
・ 売却時に伴う所得税の確定申告を一人で済ませたい
・ 相続人の社会保険の負担が増えることを避けたい
社会保険料について、たとえばAさんが会社員、Bさんは主婦(夫の扶養)だった場合、換価分割とするとBさんは所得が生じるため、夫の社会保険の扶養から外れ、自身で国民健康保険と国民年金を納付しなければならなくなるケースがあります。
一方、代償分割でAさんが売却した場合、会社員の健康保険は給与のみで保険料が算定される仕組みのため、社会保険料の負担は変わりません。
このような理由から代償分割を選択するケースが多いのではと思われます。
■最後に
同じような分割内容でも、それが現物分割、代償分割、換価分割のいずれに該当するかによって、税負担が大きく異なるケースがあります。
いずれの分割方法が有利なのか、よく検討を行った上で選択をしなければ思わぬ負担が生じるという事があるかもしれません。相続税の対象になる人や、相続後の売却予定がある人は慎重に判断することをおすすめします。