「人には優しくしましょう」「相手の気持ちを考えましょう」…おそらく多くの人は、幼いころから家庭や学校でこのような教育を受けてきたのではないでしょうか。しかし、「経済」の観点から考えると、必ずしも「温かい心」だけでは、すべての問題が解決しないことがわかります。ときには「温かい心」ではなく、「冷たい頭脳」による判断が助けになることがあります。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

「人には優しく親切に」だけでは回らない、世の中の常

世の中について正しく理解するためには、「温かい心」と「冷たい頭脳」が必要です。

 

子どもの教育には、「温かい心」をしっかり教える必要があるため、道徳の先生をはじめ、みなで「人には親切に」「相手の気持ちを思いやって」「欲張りはいけません」などと教えるわけですね。

 

しかし、経済のことを教えようとすると、「冷たい頭脳」についても教えなければなりません。「ライバルの気持ちを考えて、ライバルが嫌がることをしよう」「欲張りなことは悪くないけれど、欲張りすぎると損をするから気をつけて(適度な値上げはいいけれど、値上げしすぎると客が逃げるよ)」といったことも教えます。

 

今回は、後者の「冷たい頭脳」について考えてみましょう。人々が欲張りだから経済がうまく行っている、という話です。

「コンビニの利便性」と「欲張りな気持ち」の深い関係

読者が空腹のとき、コンビニでパンを買うとしましょう。ところで、なぜコンビニですぐにパンが買えるのでしょうか? コンビニの店長が親切だから? 違います。それは、「コンビニの店長が欲張りだから」なのです。

 

「パンを仕入れて並べておけば、客が買いに来るから儲かるぞ」と考えるからパンを仕入れておくわけです。もしも店長が欲張りでなかったら、「パンが売り切れているけど、仕入れるのは面倒だから棚がカラでも気にしない」「客が来たけど、応対が面倒だから帰ってもらおう」などと考えるかもしれないですから。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

それ以前に、コンビニの社長が欲張りではなかったら、「読者の通勤途上にコンビニを開店させれば儲かるだろうから、開店しよう」などとは考えなかったかもしれませんし、製パン業者が「パンを増産すれば読者が買って儲かるだろうから、増産しよう」などと考えなかったかもしれません。

 

こう考えると、読者が普段の生活で「コンビニでパンを買う」という何気ない行動が、「人々が欲張りであるおかげでパンが買えている」という話につながっていることに気づくでしょう。

 

そうです、経済の世界では、欲張りなことは悪いことではないのです。もちろん、「温かい心」も大切ですから、もし災害で困っている地域があれば、製パン業者がパンを贈ってあげる、といったことは推奨されるべきでしょうが。

 

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