大事なのは売上げと経費のバランス
中小企業の社長が得意なのが「カンに頼る経営」。売上げが立っていればいいだろうと思ってしまうんですね。経営計画は自分の頭の中にあるから、それにそって経営はできているという社長がけっこういます。経営は奥が深く、一人ではできないから知識の共有が必要なのも理解しているし、必要な数値を把握したいとも思いながら、その資料作成を部下に指示しづらくて、作成していない。だから、不安になる。不安なのに、それが言い出せない。言えることは売上のことに限定しがちになる。
中小企業の社長たちは「売上げ重視」になりがちです。私に言わせれば、これは一つの病気です。いつもと同じ場所で、いつもの顔ぶれの従業員がいるから、なんとなく経験で、いくらまで売上げが上がっていれば問題ないはずだ、売上げさえ保っていれば潰れることなんてないと思ってしまうのです。さらに、経営コンサルタントの多くが、売上げをどう上げるかを中心に企業を指南しています。世の中全体の風潮が「売上げ重視」です。書店のビジネスコーナーを見ても、マーケティングはこうしろとか、消費者のニーズをつかめとか、売上げを増やす方法の本ばかりです。
しかし、肝心なのは「利益重視」の経営管理です。売上げと経費のバランスが大事で、片方に集中してしまうのはいけない。
売上げばかりを重視すると、資金繰りを疎かにしがちになります。帳簿上の売上げが立っていれば、実際にお金が入ってきていると勘違いして大丈夫だと思うのですね。これだけ売り上げていれば、きちんと支払っていけるはずだと思い込む。
社長はみんな、通常の販売管理費(販管費)といわれる費用――人件費とか、家賃とか、電気・ガス・光熱費とか――について、感覚で大雑把に把握しています。通常の売上げと通常の販管費だけだったら、社長の頭の中にだいたい入っているのです。ところが、実際にはお金がなくなって「そんなわけないだろう」という発言が出てくる。
それは、たとえば、三ヵ月前に仕入れた原料の支払いが今月回ってきて大きい支払いが必要だとか、年に二回の消費税や社会保険料支払いが今月に当たっているとか、年二回のボーナス月で、前回プラスアルファして全員にボーナスを支給すると約束していたとか、そういう周期のサイクルが頭に入っていないからです。
毎月の販管費の支払いの話ではなくて、単月で大き目のお金が必要になってくる場合がある。だから、売上げが立っていれば大丈夫という話ではないのです。月ごとの支払いに波があるし、業種によっては売上げも毎月大きく変動します。だから、大きく支出が膨らむ月がくるのを予想して、その分をストックをしておかないといけない。そうしないと、税金、支払い期日指定の原材料、ボーナス月などの支払いに、対応できなくなって、急遽お金を借りに行くことになったりします。
ストックしておくのが理想ですが、急な大きな支出があれば、ストックしていたつもりの資金もすぐに出て行ってしまうのが現実でしょう。こう考えると売上重視で、毎月このくらい売上げていれば大丈夫というわけにはいかないのが納得できるでしょう。ですから、理想的なことはできないながらも、三ヵ月先、六ヵ月先の資金繰り管理表は絶対に必要になるのです。
事業継続のカギは「資金繰り」
資金繰りは、会社が黒字かどうかということとはまったく別のことだということです。これをいつも意識して欲しい。会計上赤字、実質赤字であっても、翌月の入金額から、支払いが期間を延ばしながらでもできる見込みがあるのなら、事業は継続していけるのです。
資金繰り表を付けるだけで、今まで不明確だったものが明確になる。そこから、債権者への対応の仕方、苦しんでいた借金の問題をクリアする方法なども見えてきます。
要するに、決算書というのは、一年に一回期末に作られるもので、一年の結果として会計上で黒字だったのか、赤字だったのかはわかる。しかし、今から何をすべきかという当面の方針には、そのまま使うことはできません。資金繰りを見なくてはならないということです。
今、資金が必要で、その資金を使って何をするのか、そうしたらどう儲かって、どう返していけるのかを決算書のみで判断するのは、そもそも無理なのです。
たとえば、飲食店などでも、どれくらい売れるかの予測が立って、それに対してどのくらい仕入れるかを実績をもとに予測できるようにしておかないと、どのタイミングで何をすればよいのかが見えてこない。長期的な戦略のなかで、決算書のBSにある資産や負債を判断材料として、PLの利益と経費を見ながら経営方針を立てることは大事ですが、現在と近い未来を経営していくには、決算書は判断材料にならないのです。
近い未来の継続を繰り返すことが事業継続の視点なのです。