今回は、マイナンバー時代に厄介となる「預金凍結」について見ていきます。※本連載は、弁護士・叶幸夫氏と、税理士・山下薫氏の監修書籍、『マイナンバーでこう変わる!遺産相続:遺言書の書き方から節税対策まで』(徳間書店)の中から一部を抜粋し、今から心得ておきたい新時代の相続・贈与の基礎知識を紹介します。

役所に死亡届を出したとたん銀行口座が凍結される!?

父親が死んで役所に死亡届は出したが、葬式費用がないので父の貯金を下ろして使いたい──。こんなときも、マイナンバー時代はおいそれとそうはさせてくれないのです。

 

もちろん、父親の死亡を銀行が知れば、口座が止められ、引き出すことができなくなります。これを、「預金凍結」と言います。なぜならば、名義が父親である預金は、死亡したときから「相続財産」ということになるからです。

 

[ここがポイント]

相続に不公平や不満が生じないように、銀行は、死亡届が出された故人の預金を凍結し、引き出しができないような措置を講じます。

 

母親など、他の相続人がいるにもかかわらず、故人の息子が勝手に預金を引き出してしまったら、他の相続人の相続分が減ってしまいます。そういう事態が起きて、相続人同士の争いが起きないために、銀行は、遺産をどう分けるかが決定するまで、預金はそのまま守るという手段を講じるのです。

 

しかし、マイナンバーが適用されていなかった今までなら、役所の窓口に死亡届を出しても、銀行に申し出をしないかぎり、預金は凍結されなかったのです。銀行が、被相続人の死亡を知るのは、家族などからの申し出を受けてからだからです。

 

しかし、マイナンバーが、銀行口座と連携されるようになれば、役所が死亡届を受理すると同時に、父親のマイナンバーは使えなくなり、預金口座は凍結されてしまうでしょう。

 

[ここがポイント]

マイナンバーと預金口座が連携されるようになると、相続人が銀行に申し出なくても、死亡届が役所に出されたとたんに、凍結される可能性があります。

葬式費用を引き出すにも面倒な手続きが必要に・・・

こうして、父親に預金口座が集中していて、母親の預金が少なかった場合、まず困るのが葬式費用です。

 

一応、銀行側としては、そういう場合の対応をすることになってはいます。ATMからの引き出しはできなくても、支店長などに事情を説明することで、ある程度の金額を引き出すことは可能です。

 

しかし、その場合、めんどうな手続きが必要です。すなわち、凍結された預金を引き出すには、原則として、相続人全員の同意書が必要だからです。相続人全員の同意が必要という点では、実際に遺産をどう分けようかという段階になったときには、さらに厳しくなります。

 

たとえば、遺産をどう分けるかの話し合いが長引くこともあります。相続人のうちの誰かが、昔家出をしてしまっていて音信不通で居どころがわからないという場合もあります。そうなると、長い間、預金の凍結を解除できない状況が続く可能性も出てきます。

 

[ここがポイント]

預金が凍結されてしまってから預金を引き出すには、少額の葬式費用でも、原則として、相続人全員の同意書が必要になります。

 

預金の凍結が解除されないときに困るのが相続税でしょう。控除の範囲内ならば問題はありませんが、多額の財産が遺された場合に発生する相続税は、被相続人が死亡した次の日から、10か月以内に納めることになっているのです。

 

さらにもう一つ付け加えれば、凍結された口座には入金もできないということです。被相続人が、振込みを約束して売った品物があっても、購入者はその入金ができなくなるのです。

 

そんなときは、信用できる相続人代表を選んで口座を作り、そこに振り込んでもらうようにします。

 

本連載は、2016年2月29日刊行の書籍『マイナンバーでこう変わる!遺産相続:遺言書の書き方から節税対策まで』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

マイナンバーでこう変わる! 遺産相続:遺言書の書き方から 節税対策まで

マイナンバーでこう変わる! 遺産相続:遺言書の書き方から 節税対策まで

叶 幸夫・山下 薫

徳間書店

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