遺された「ペット」の面倒を見てもらうには?
甥の剛や姪の千恵子をはじめ頼れる親戚は遠くにいますが、マンション暮らしで、ペットを引き取ってもらうことまでは頼めません。そこで、昌子が飼育することができなくなったときには、懇意にしているペットショップ経営者の伊藤に任せたいと思っています。
<解決策>
犬飼昌子は、行政書士Mと任意後見契約公正証書を締結します。もし昌子が病気や事故、認知症等でペット2匹を飼い続けることが困難になった場合には、長いお付き合いの伊藤に引き取ってもらうことになっているので、行政書士Mには、任意後見人に就任して自分自身の介護・入所費用の管理・支払いに加え、ペットを伊藤に預ける手配とそれに伴い発生する毎月のえさ代・世話代等を支払うように依頼しておきます。
また、昌子が亡くなった際の備えとして、任意後見契約と同時に遺言公正証書を作成します。遺言の中で、自宅不動産は遺言執行者に指名した行政書士Mが換価処分(売却)し、すべて金融資産に換えます。
現金化された遺産のうち、あらかじめ試算したペット2匹の生涯の飼育代と2匹が亡くなるまでの期間の信託報酬・信託監督人報酬の予想累計額(たとえば月額○万円×〇ヵ月分)を信託財産とする遺言信託を設定します。信託財産以外の残りの金銭については、甥の剛や姪の知恵子などの親戚に遺贈します(清算型遺贈)。
遺言信託の内容は、受託者を剛、受益者を剛と知恵子の2人にし、信託監督人として行政書士Mを指定します。信託財産は、ペット2匹と現金とし、毎月のえさ代・世話代については、受託者剛が剛名義の信託専用口座から伊藤に支払います。
剛や知恵子は、伊藤から定期的にペットの飼育状況の報告を受けるともに、行政書士Mは必要に応じて伊藤のところにペット2匹の状況を見に行くようにします。
昌子の遺言信託
委託者:故犬飼昌子
受託者:剛(予備的に知恵子)
受益者:剛および知恵子(受益権は各2分の1)
信託監督人:行政書士M
信託財産:ペット2匹および現金
信託期間:ペット2匹が死亡するまで
残余財産の帰属先:剛、知恵子、伊藤
<要点解説>
ペットが遺されるリスクは飼い主の死亡だけではないため、任意後見契約と遺言をセットで準備しておくことで、生前の判断能力喪失と死亡の両方のリスクに備えることができます。
頼れる親戚は遠方にしかいないので、ペットを引き取ることも定期的に会いに行くこともできません。そこで、ペットショップ経営者の伊藤に、いざというときの世話をお願いし、その際の世話代等の月額の費用をあらかじめ決めておきます。昌子が施設入所等で飼育できなくなった場合、任意後見人となった行政書士Mが、伊藤にペットのお世話を任せる手配を実行するとともに、昌子の老後の財産管理と身上監護を担います。
昌子が亡くなったあとは、まず行政書士Mが遺言執行者として遺産をすべて取りまとめたうえで、その遺産の一部(親戚に遺贈した残り全て)を信託財産とする遺言信託の仕組みのなかで、甥の剛に受託者としてペットのための財産管理を担ってもらいます。
ペットの健康状態や飼育方針の確認については、受益者(実質的な飼い主)になる剛・知恵子に定期的に連絡が入りますが、何かあれば近くにいる行政書士Mが伊藤のところに行って実際のペットの現状を確認しますので安心です。
法的には、ペットも「動産」として扱う必要がありますので、昌子の遺産たる「ペット2匹およびその飼育代相当額」を信託財産とし、剛・知恵子が受益者として実質的にその財産を受け取ることにします(受益者は個人または法人でなければならないので、ペット自身を受益者にすることはできない)。
こうすることで、ペット2匹の飼主が受益者であることを明確にしたうえで、いざというときには剛・知恵子が責任をもって対応することができます(もし、ペットの所有者を実際の飼育者たる伊藤にしてしまうと、飼育者の故意・過失によりペットに死傷事故が起きても責任を追及できなくなる)。
ペット2匹が亡くなった時点で信託が終了し、2匹の葬儀・納骨・永代供養まで行った後に残った残余財産(信託専用口座の預金)があれば、それを剛、知恵子、伊藤で3等分に分配して清算も完了します。ペット2匹の死亡の段階で、剛・知恵子の財産の一部(残余財産の3分の1)が伊藤に移動することになりますので、もしその金額が金110万円を超える場合には、伊藤に対して贈与税の課税の対象となるので注意しましょう。
なお、遺言信託については、遺言者の記載において、品種、生年月日、性別、名前などで信託財産となるペットをしっかり特定しておく必要があります。
宮田浩志
宮田総合法務事務所代表
※本記事の事例に登場する名前はすべて仮名で、個人が特定されないよう内容に一部変更を加えております。
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