●先月下旬、一部のファミリーオフィスに関連する取引により、株式市場では一時警戒感が広がった。
●ファミリーオフィスは一般に規制が緩く、緩和的な金融環境も高いリスクをとる動きにつながったとみる。
●当局は規制強化へ、アルケゴス問題は関係主体がほぼ特定され金融システムへの影響は限定的。
先月下旬、一部のファミリーオフィスに関連する取引により、株式市場では一時警戒感が広がった
米国株式市場では先月下旬、一部の米メディア関連銘柄などが急落する場面がみられました。報道によれば、米大手金融機関がこれらの株式について、相対で大量に売却する「ブロック取引」を行った模様で、売り注文を出したのは、アルケゴス・キャピタル・マネジメントとされていました。アルケゴス・キャピタル・マネジメントは、著名ヘッジファンドの出身者であるビル・ホワン氏の個人資産を運用する「ファミリーオフィス」です。
アルケゴス・キャピタル・マネジメントは、金融機関から借り入れた資金を元にレバレッジ(てこ)をかけて、その何倍もの金額を株式に投資していたとみられますが、株価の下落によって金融機関から追加の担保を求められた際、それに応じることができず、保有株式の売却を余儀なくされたと報じられています。そのため、追加的な投げ売りや、取引に関連した金融機関の損失に対する警戒感が、一時市場に広がりました。
ファミリーオフィスは一般に規制が緩く、緩和的な金融環境も高いリスクをとる動きにつながったとみる
ファミリーオフィスとは、資産家一族の資産管理を担う運用会社です。アセットマネージャーや弁護士、会計士、税理士などによる専属チームで組織され、資産運用のほか、子供や孫の教育、事業承継まで、幅広いサービスを手がけています。なお、市場調査会社のカムデン・リサーチによると、世界のファミリーオフィスが運用する資産総額は、2019年時点で5.9兆ドルにのぼるとのことです。
ファミリーオフィスは、一般的な顧客本位の業務運営ではなく、米証券取引委員会(SEC)や米商品先物取引委員会(CFTC)も、情報開示などの点で例外扱いとしています。さらに、昨年のコロナショック以降、世界的な金融緩和によって流動性相場が形成され、リスクをとりやすい環境が生まれました。そのため、アルケゴス・キャピタル・マネジメントのような一部のファミリーオフィスが、リスクの高い投資手法を採用したと推測されます。
当局は規制強化へ、アルケゴス問題は関係主体がほぼ特定され金融システムへの影響は限定的
今回のアルケゴス問題を機に、SECやCFTCによるファミリーオフィスの監視強化が加速する可能性が高まりました。また、日本でも、アルケゴス関連とみられる取引で国内金融機関に損失が発生したことを受け、金融庁と日銀が連携して実態把握に乗り出すことになりました。今後、ファミリーオフィスによる過度なリスクを取る動きは、全体的に抑制される方向に向かうと思われます。
アルケゴス問題では、特定銘柄の下落幅や、一部金融機関の損失額は、かなり大きなものとなりましたが、関係する主体はほぼ特定されています。そのため、損失が連鎖的に他の金融機関に波及し、金融システム全体が機能不全になる懸念は小さいと考えます。この点でアルケゴス問題は、リーマン・ショックに起因する金融危機とは本質的に異なるため(図表1)、米国株式市場も落ち着いた動きが続いています(図表2)。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『ファミリーオフィスと金融市場~アルケゴス問題を考える』を参照)。
(2021年4月13日)
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト