まずは「親の家を貸した場合」の収支を知る
売るのが一番シンプルだと説得されても、やはり当面は「貸す」を選択したいと考える方もいらっしゃるでしょう。そうした方は、「貸す」と入ってくるお金と出ていくお金を洗い出して、客観的に親の家の収支をシミュレーションしてみてはいかがでしょうか。
●継続的に入ってくるお金
家賃:借主が毎月支払うお金。常に借主がいるとは限らないので、低めに見込んでおきます。
管理費:借主が負担する管理費(共益費)がある場合は、毎月入ってきます。
●一時的に入ってくるお金
礼金:新規契約の際、貸主に対する謝意として、借主が払うものです。賃料の1カ月か2カ月の場合が多いようですが、昨今は「礼金なし」が増えています。
更新料:賃貸契約の更新に際して、契約内容に応じて借主が貸主に支払います。更新後の新賃料の1カ月という例が多いようです。が、こちらも「更新料なし」が増えています。
●借主から預かるお金
敷金など:賃料や補修費等の支払いを担保する目的で、貸主が借主から預かるもの。一般的に賃料の1〜2カ月が多いようです。借主が退去するときに賃料の滞納や借主に原因のある損傷の修復費用の支払いをこの敷金であて、残金は借主に返還します。
○継続的に出ていくお金
管理委託費:不動産会社に入居者や建物の管理を委託するとかかるお金です。入居者管理は賃料の集金、苦情対応など。建物管理は物件の清掃やメンテナンスを行います。管理委託費は賃料の5%がひとつの目安のようです。
ほかには、管理費、修繕積立金、固定資産税、都市計画税があります。
○一時的に出ていくお金
貸し出す際のメンテナンスや修繕費:用古い家を貸し出す際の初期リフォーム代以外に、入居中の室内の設備の故障などのメンテナンス費用、入居者の退去時の補修費用やクリーニング費用などがかかります。
仲介手数料:入居者募集を不動産会社に依頼する場合、月額賃料の0.5~1カ月(最大)分+消費税の範囲で支払う必要があります。
その他諸経費:損害保険料、交通費、通信費など
ほかには、所有していると必ず出ていくお金として、建物や設備の修繕費用があります。
通常収支と全体的な収支から「親の家」の借家力を計算
まずは、継続的な収支を見てみましょう。毎月の家計に与える影響を確認します。
継続的収入 - 継続的支出 = 通常の収支
次に、賃貸期間を想定しつつ全体的な収支を計算します。
(継続的な収入+一時的な収入見込み)-(継続的支出+一時的支出)= 全体的な収支
下記図表は、福岡県久留米市の一戸建ての収支シミュレーションです。4年間で11.3万円と、わずかな黒字になりました。
[図表]実際に4年間貸した場合の収支シミュレーション
きょうだいで共有している場合はこのわずかな収益を分け合うことになります。地方都市の郊外など家賃がもっと安い場合や、築年数が30年超の古い家で初期のリフォーム費用が200万円にも及んだり、入居中の故障などへの対応によりメンテナンス費用がもっとかさめば、たちまち赤字になってしまいます。
安い家賃、高いメンテ費用・・・想像以上に貸すのは大変
平成27年4月、JR東京駅から1時間ほどの距離にある千葉県松戸市で、駅から徒歩10分超の一戸建てを貸しに出した方の事例です。
築25年の木造2階建て、駐車場もついて周辺の家賃相場は8万円。この一戸建ては、賃貸するためにリフォーム工事を実施することになりました。リフォーム費用は実に150万円!周辺家賃の相場は8万円ですから、約1年半の家賃にも相当します。
リフォーム工事に要した期間は約1カ月。入居者の募集を開始したときには、すでに引っ越しシーズンのピークを逃してしまいました。結局、空室は4カ月も続き、やっと入居者が決まりましたが、それは近隣の工事関係者の短期需要でした。「半年後に出ていってしまったあと、クリーニング費用は結構かかりました」とのことです。
地方都市の郊外など、立地があまりよくなくて、家賃が5万円を下回る、しかもメンテナンスコストが高くつく広い家を「貸す」のは思った以上に大変なことではないでしょうか。
そして、もうひとつ、おせっかいを。有効活用の方法として、難易度が最も高いのはアパート、マンションなど事業用建物を新たに建てて、経営していくことです。
この方法がどのように難しいかを、次回、事例を通してご説明していきましょう。