損得勘定が査定基準
「気心知れた仲だったので信頼していたら、突然裏切られた」という経験は、誰にでも一度はあるのではないでしょうか。「相性の良し悪し」の裏に隠れているのが、この「損得勘定」という厄介な意識です。
外資系企業で働いていた時のことです。全社を挙げて、新たなビジネスモデルを実際に軌道に乗せるプロジェクトに参画する機会がありました。目指すべきビジネスに関する実務経験があった私は、ほかに経験者があまりいなかったこともあり、当時の責任者からとても重宝されました。
責任者は、社内でも評判が真っ二つに分かれるタイプの方で、私の部下からも、「あの責任者には気をつけたほうがいいですよ。最初はいい顔するけれど、その後に切られた人を知っているんで」との忠告をもらったほどでした。
しかし、実際にプロジェクトが進む中で、特にそれらしき兆候はなく、むしろ、こちらのイメージ通りに(時にはイメージ以上に)ことが運ぶので、責任者に対する妙な噂のことはすっかり忘れて、充実した日々を過ごしていました。
責任者と夜食事をしている時も、「やあ、ご苦労さん。君の給料もっと上げてあげないといけないね」などと持ち上げられて、すっかりその気になっていました。
その責任者の恐ろしさを、肌で知ることになりました
無事プロジェクトが終了して、準備したビジネスが実際に軌道に乗り始めた頃、待っていたのが、突然の人事異動です。異動先は、今までとは次元の違う部署で、部下もいなくなり、見方によっては左遷とも受け取れる内容でした。
利用価値があるうちは、おだてながら徹底的に利用し、目的が達成されると「お役御免」と切り捨てる。「損得勘定」が透けて見える、あからさまな手法に、当時は驚きを隠せませんでした。「なるほど、こういうことなのか」部下からもらった忠告がフラッシュバックし、改めて、その責任者の恐ろしさを、肌で知ることになりました。
この手の上司は、自分に都合の良いと感じた部下を、最初は相性がいいと思わせて味方につけ、利用価値がなくなると、今度は手のひらを返したように、容赦なく切り捨てます。
部下としても、当初は、相性が良いと勘違いしてしまいますので(させられてしまうといったほうが、適切かもしれません)、「気づいた時はすでに手遅れ」、という結末を迎えることになります。
役に立つ間は「好き」、役目が終わると「嫌い」ということでしょうか。必要なうちは「相性良く」、不要となると「相性悪く」なるのですから、これはもうどうにも始末に負えません。
ちなみに、この責任者に登用されて、実質的に使い捨てにされた社員は、その後も後を絶ちませんでした。
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中山 てつや
1956年、東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。日系製造メーカー及び外資系IT企業を経て、主にグローバル人材を対象としたキャリアコンサルティングの仕事に携わる。