庄司進氏は著書『補助金の倫理と論理』のなかで補助金をめぐる諸問題について語っています。当記事では、公庫の融資、県の補助金交付事務といった実務経験をもとに、日本の金融と補助金の問題点を考察していきます。

「口利きを制限」一応しているものの…

政治資金規正法第22条3は、補助金の交付決定を受けた企業は、その後1年間、政治団体等に政治活動に関する寄付をしてはならない、と定めている。

 

この条文の趣旨は、「補助金を他の目的に使用してはいけない」ということと「政治献金できるぐらいの資金があるなら補助金など申請するな」ということだと思われるが、一方で、補助金交付にあたっての政治家の口利きを制限しているとも考えられる。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

ただし、この条文が実際にはどの程度の効果があるのかはわからない。ある程度の規模の企業であればこの条文を知っているだろうが、補助金をもらう企業は小規模企業が多いので、補助金をもらっている企業の大半はこの条文の存在を知らないかもしれない。

 

あるいは、知っていたとしても抵触しない方法を取ることは十分ありえる。例えば、寄付ではなく政治資金パーティ券を購入するという方法もある。パーティ券の購入が寄付に該当するのかどうか私は知らないが、仮に該当するにしても、直接購入ではなくあっせん者を通じて購入したことにすれば購入者の名前は出てこない。

 

ほかに、金の動きがまったく表には表れない方法もある。ある会社経営者から聞いた話を紹介しよう。

「ちょっと寄ってみた」帰り際に…

ある国会議員が、「近くまできたので、ちょっと寄ってみた」とその会社の事務所にやってくる。応接室で社長と議員は最近の景気などについて話をする。話が終わって議員は応接室を出るのだが、議員が座っていた場所には、財布にしては大きいがバッグにしては小型のものが置いてある。このとき、

 

「先生、バッグを忘れてますよ」

 

と声をかけてはいけない。

 

気づかないふりをして別れのあいさつをする。議員が会社を離れてから、「先生、バッグをお忘れでした」と電話するのだ。すると議員は、

 

「おお、そうだ。いまから秘書に取りに行かせる」

 

と言う。あとで秘書が、その財布にしては大きいバッグにしては小さいものを取り来るのだが、それに1万円札を数十枚入れて渡すのだ。100万円でも入るのだが。

 

そのあとで議員が「君ねえ、お札が増えていたよ」と言ってくることは絶対にない。なにしろ国会議員なので天下国家のことで頭がいっぱいで、自分の財布にお金がいくら入っていたかなどには関心がないのだから。

 

私は議員諸氏を糾弾しようとしているわけではない。私の言いたいことは、補助金については、必ず口利きに類する問題が発生するものであり、それを防ぐのは非常に難しいということだ。

 

先に挙げた政治資金規正法22条の4には、3年連続して欠損を出している企業は、その欠損がカバーできるまで政治活動に関する寄付をしてはならないという規定がある。

 

政治家にしてみれば、献金しようとしている企業が補助金をもらっているのか欠損を出しているのか調べるのは大変だと思うが、この条文の趣旨は、「赤字なのに政治献金する必要がありますか、そんな金があるのなら赤字補てんに回しなさい」ということだと思う。まったくもって当たり前のことだ。

 

にもかかわらず、わざわざ明記せざるをえなかったのは、赤字でも政治献金しようとする企業があるからだ。企業にしてみれば、赤字だからこそ、例えば補助金を引き出すために先生方に口利きをお願いする、そのための政治献金ということになるのだろう。

 

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庄司 進
1952(昭和27)年仙台市生まれ。
東北大学経済学部卒業後、国民金融公庫(現日本政策金融公庫)に入庫、小企業への融資事務に従事。
2012(平成24)年公庫を定年退職、2013(平成25)年から宮城県経済商工観光部に期限付職員として勤務、補助金の交付事務に従事し、2018(平成30)年退職。現在は仙台市に在住。
著書に『日本の銀行と世界のBANK』(幻冬舎ルネッサンス新書)、『お役所仕事の倫理と論理』(創栄出版)、『危険な思想-狩野亨吉と安藤昌益』(無明舎出版)がある。

本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『補助金の倫理と論理』より一部を抜粋したものです。最新の税制・法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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