白内障は80歳頃にはほぼ100%の確率で発症する病気です。ところが実際は40歳頃から、老眼とともに進行するケースも珍しくありません。人生100年時代、誰しも一度は手術をすすめられる機会が来るでしょう。しかし目の手術と聞くと、どうしても痛そう、怖そうな感じがします。実際どのような手順を経るのでしょうか?

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

手術自体はスピーディだが…「様々な事前準備」が必要

手術を受ける準備として、白内障治療のおおまかな流れを知っておきましょう。私たちのクリニックグループでは、白内障の治療は、基本的に図表1のように行われます。

 

[図表1]白内障治療の流れ(日帰り手術の場合)

 

手術自体は「日帰り」が中心になりますが、その前には検査やさまざまな準備が必要になりますし、高齢の患者ではご家族に付き添っていただくことも何回かあります。患者本人はもちろん、ご家族も含めておよその流れを知っておいていただくと、治療をスムーズに進められます。

「手術でどれくらい改善するか?」がわかる手術前検査

白内障の診断が出たら、手術前検査を行います。この手術前検査は非常に重要です。その人の眼の状態により、そもそも手術によって改善が見込めるのかどうか異なるためです。

 

たとえば眼球の奥の網膜に変性などがあると、白内障手術で水晶体の濁りをとったとしても、正常な視力が回復しないことがあります。また、角膜の細胞(角膜内皮〔ないひ〕細胞)が少なくなっていると角膜が濁ってしまい、白内障手術をしても視力が回復しないことがあります。

 

強度近視でコンタクトレンズを長期間使用してきた人、特に、酸素透過性の低いハードレンズを長く使ってきた人は要注意です。ほかに、ぶどう膜などの炎症によっても角膜内皮細胞が減ることがあります。そのため手術前には内皮細胞の数や大きさを調べる検査を行い、内皮細胞の状態をチェックして、手術で視力回復が可能かどうかを判断します。

 

白内障手術をするには、目の奥の状態もしっかり調べたうえで、手術の適応を判断する必要があります。

 

●OCT検査

光干渉断層計検査のことで、従来の検査では網膜の表面しか見ることができませんでしたが、網膜の断層画像や視神経の形態を撮影することができます。角膜や虹彩、水晶体の断層部を測ることのできる前眼部OCTでは、手術前後に緑内障を起こすリスクをあらかじめ検査することができ、角膜後面の形状も調べることもできます。

 

●角膜トポグラフィー検査

角膜の表面の形状を測定する検査のことです。角膜の歪み(形状異常)は、眼の屈折に大きく影響するため、眼に合った眼内レンズ度数を計算するために必要な検査です。この角膜トポグラフィー検査では、ほとんどの眼科医院にあるオートケラトメーターでは測定できない角膜全体のカーブを測ることができます。

 

現在、白内障手術を多く行っているクリニックでは、このOCT検査と角膜トポグラフィー検査を中心に精度の高い検査を行い、手術に備えます。

 

それ以外にも、次のような検査を行います。

 

●眼圧検査

眼圧とは、眼球形状を保つための圧力のことで、正常値は10~20mm/Hg(正常値には個人差あり)です。眼圧を測るために目にごく少量の空気を吹きつけ、眼球の硬さを調べます。この検査で緑内障や高眼圧症の有無を調べます。

 

●眼底検査

眼底にある網膜や血管、視神経の状態を調べる検査です。手術で水晶体の濁りをとっても、網膜や視神経に異常があると十分に視力が回復しないことがあるため、事前の検査が重要です。水晶体に濁りが出ている人は眼底が見づらくなっていることが多いので、「散瞳薬」を点眼したあと、検眼鏡という検査器具を使って眼球の奥を観察します。

 

●網膜電図検査(ERG)

白内障が進行していて濁りがひどい場合、散瞳薬を使っても眼底の状態を観察できないことがあり、そういう場合に行うのがこの網膜電図です。網膜に重い機能異常がないかをおおまかに調べる検査で、15~20分間暗室で眼を慣らしたあと、強いフラッシュ光を眼にあて、網膜神経の活動電位を記録し波形で判定します。

 

●超音波エコー検査

水晶体全体の濁りがひどく、眼底の観察が難しいときには、超音波エコー検査を行うこともあります。この検査で硝子体(しょうしたい)出血や網膜剥離などが認められたときには、白内障の手術だけでなく、眼のより奥にある網膜硝子体の手術を行う必要があります。

 

●角膜内皮細胞検査

角膜内皮細胞とは、角膜の内側を覆っている細胞です。通常1mm²あたり2000~3000個ある細胞が300~500個まで減少すると、角膜を透明に保つ力が失われて角膜が混濁し、白内障手術をしても視力が回復しないことがあります。

 

●全身検査

血液検査や心電図、血圧測定などを行います。全身の健康状態に問題が見つかった場合は、白内障手術より内科治療を優先させることもあります。白内障手術は、眼だけに局所麻酔をして行うものなので、身体への負担も小さく、全身に及ぼす影響はほとんどありません。しかし高齢になると高血圧や糖尿病、心疾患などの持病のある人も少なくないため、手術のリスクに備えてさまざまな検査を行います。いずれも安全に手術を行い、かつ確実な成果を得るために不可欠な検査です。

「眼内レンズのベストな度数」がわかる検査

白内障手術が適応すると判断されれば、いよいよ手術前検査を行って眼内レンズの度数を決めます。眼内レンズの度数は、眼の奥行き(眼軸長〔がんじくちょう〕)と角膜のカーブ及び水晶体の位置や厚みから眼内レンズの固定位置を予測して求めます(図表2)。

 

眼内レンズには、さまざまな種類・特徴があります。どの程度の視力が必要か、眼鏡などの併用は可能かなど、患者の生活や見え方の希望を医師に伝え、よく話しあって決めるようにしましょう。

 

[図表2]眼内レンズ度数は眼の奥行きと角膜のカーブ及び固定位置で決まる

 

●光学式眼内寸法測定

レーザー光線で、角膜から網膜までの奥行き、角膜のカーブを測ります。またそれ以外にも、この検査機器1台で水晶体・角膜の厚み、角膜から水晶体までの距離(前房深度)、角膜径などを測定することができ、より確実な度あわせを実現することができます。

 

●オートケラトメーターと超音波測定

レーザーでの測定でうまく数値が測定できない場合や、レーザーの検査機器がない場合、このオートケラトメーターという装置で角膜の曲率半径を測定し、超音波測定で眼軸長を測定します。

 

 

市川 一夫

日本眼科学会認定専門医・認定指導医、医学博士

 

市川 慶

総合青山病院 眼科部長

 

 

※本連載は、市川一夫氏・市川慶氏の共著『「一生よく見える目」を手に入れる白内障手術 改訂版』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

「一生よく見える目」を手に入れる白内障手術 改訂版

「一生よく見える目」を手に入れる白内障手術 改訂版

市川 一夫

市川 慶

幻冬舎メディアコンサルティング

自分の目に合う白内障手術とは? 約8万眼の白内障手術を行ってきた日本トップクラスの白内障専門医が徹底解説! 「レンズは何を選べばいいの?」 「手術に失敗したらどうする?」 「レーザー手術がいいっていうけれど本…

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