米長期金利上昇に対するFRBの真意を探る

本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「市川レポート」を転載したものです。

 

●FRBのブレイナード理事とパウエル議長は、米長期金利上昇に懸念を示すも対応策まで言及せず。

●市場ではツイスト・オペなどの予想も、ただこれらは景気回復が見込まれる現段階の施策ではない。

●FRBは長期金利の上昇と株価の調整を容認しバブル回避とテーパリングの織り込みを狙う考えか。

FRBのブレイナード理事とパウエル議長は、米長期金利上昇に懸念を示すも対応策まで言及せず

米連邦準備制度理事会(FRB)のブレイナード理事は3月2日、米長期金利の上昇速度は目を引くもので、無秩序な状態や金融環境のひっ迫が続き、FRBの目標達成を遅らせるような状況になれば懸念すると述べ、米長期金利の急上昇をけん制しました。これを受け、市場の一部に、FRBが金利上昇抑制のため、何らかの策を講じるのではないかとの見方が広がりました。

 

こうしたなか、パウエル議長は3月4日、米メディア主催の討論会に出席し、その発言が注目されました。しかしながら、パウエル議長の米長期金利上昇に関するコメントは、2日のブレイナード理事のものと、ほぼ同じ内容にとどまり、金利上昇抑制のための具体的な措置について言及はありませんでした。そのため、その後も米長期金利の上昇傾向と、株価の不安定な動きは続いています(図表1)。

 

(注)データは2021年2月1日から3月8日。矢印とパーセント表示はS&P500種株価指数の直近 高値から直近安値までの下落率を示す。 (出所)Bloomberg L.P.のデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表1]最近の米長期金利と株価の動き (注)データは2021年2月1日から3月8日。矢印とパーセント表示はS&P500種株価指数の直近高値から直近安値までの下落率を示す。
(出所)Bloomberg L.P.のデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

市場ではツイスト・オペなどの予想も、ただこれらは景気回復が見込まれる現段階の施策ではない

米長期金利上昇に対するFRBの姿勢について、市場の評価は総じて芳しくありません。市場参加者のなかには、FRBが金利上昇を抑制する措置として、一時的な「量的緩和の強化」や、国債全体の購入量は維持しつつ、短期債を減らし長期債を増やす「ツイスト・オペ」を予想する声も聞かれ、米金融当局が具体的な行動を起こすことを望む向きも多いように思われます。

 

ただ、長期金利の上昇が、景気回復期待を背景とするものであれば、本来、株価にとって悪いものではありません。そもそも、一時的な量的緩和の強化やツイスト・オペは、景気失速が見込まれるなかで検討される施策であり、景気回復が見込まれる現段階で検討されるものではありません。今回、ブレイナード理事やパウエル議長が、金利上昇を抑制する具体策を示さなかったのは、何か他の意図があるようにも考えられます。

FRBは長期金利の上昇と株価の調整を容認しバブル回避とテーパリングの織り込みを狙う考えか

つまり、FRBは長期金利の水準形成を市場に委ねることで、一定程度、株価の調整を容認していると推測されます。FRBが長期にわたって金融緩和を継続し、バイデン米政権が大型の追加経済対策を実施すれば、この先、米景気は相当力強い回復が予想されます。つまり、株価の自律的な調整を容認することには、早い段階でバブルの形成を回避し、テーパリング(量的緩和の段階的縮小)の織り込みを進める狙いがあるとみています。

 

2013年5月、当時FRB議長であったバーナンキ氏が量的緩和の縮小を示唆し、市場が大きく混乱しました(いわゆる「テーパータントラム」)。米国株はその後、短期的な調整を何度か経て、テーパリングを織り込み、長期的な上昇基調を形成しました(図表2)。今回も同様の展開が予想されますが、2013年と異なり、FRBが早期のテーパリングを明確に否定するアプローチを採用している分、調整は穏やかになると思われます。

 

(注)データは2013年5月2日から12月31日。矢印とパーセント表示はS&P500種株価指数の 直近高値から直近安値までの下落率を示す。 (出所)Bloomberg L.P.のデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表2]2013年5月以降の米長期金利と株価の動き (注)データは2013年5月2日から12月31日。矢印とパーセント表示はS&P500種株価指数の直近高値から直近安値までの下落率を示す。
(出所)Bloomberg L.P.のデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『米長期金利上昇に対するFRBの真意を探る』を参照)。

 

(2021年3月9日)

 

市川 雅浩

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフマーケットストラテジスト

三井住友DSアセットマネジメント株式会社 チーフマーケットストラテジスト

旧東京銀行(現、三菱UFJ銀行)で為替トレーディング業務、市場調査業務に従事した後、米系銀行で個人投資家向けに株式・債券・為替などの市場動向とグローバル経済の調査・情報発信を担当。
現在は、日米欧や新興国などの経済および金融市場の分析に携わり情報発信を行う。
著書に「為替相場の分析手法」(東洋経済新報社、2012/09)など。
CFA協会認定証券アナリスト、国際公認投資アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員。

著者紹介

投資情報グループは、総勢14名のプロフェッショナルを擁し、経済や金融市場についての運用会社ならではの高度な分析を社内外に情報発信しています。幅広い投資家に良質な情報を伝えるべく、活動する機会や媒体は多岐にわたります。年間で約800本の市場レポートを作成し、会社のホームページで公開中(2019年度実績)。

著者紹介

連載【市川雅浩・チーフマーケットストラテジスト】マーケットレポート/三井住友DSアセットマネジメント

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