2020年、世界中の株式市場が大混乱に陥りました。ファイナンスの教科書に出てくるユジーン・ファーマ教授の効率的市場仮説「株式市場は常に利用可能な情報が完全に織り込まれている場所だ」という定義からほど遠い混乱ぶりでした。市場はなぜ時々おかしな動きをするのでしょうか。株式はなぜ過大に、あるいは過小に評価されるのでしょうか。FOUR SEASONS ASIA INVESTMENT Pte. Ltd. のCEOである国府田茂佳氏が解説します。

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「完全に織り込まれている」状態とは何か

■株式市場が織り込むもの・織り込めないもの1:人間の感情・視野と時間軸 

 

ノーベル経済学賞を受賞したユジーン・ファーマ教授の効率的市場仮説(Efficient Market Hypothesis)によれば株式市場は常に利用可能な情報が完全に織り込まれている場所だ、とされています。株式のベータの概念などはこの効率的市場仮説をベースにしています。

 

この仮説の通りであるならば、株式市場は利用可能な情報が全て織り込まれているはずなので、市場価格は常に本来の価値を反映するため、証券を売買する意味はあまりありません。過大評価や過小評価、いわゆるミスプライスというのがないはずです。

 

おそれ多くもノーベル賞につながるこの理論に間違いがあるとはいいませんが、いくつか欠落している概念があるように見えます。

 

ひとつは「時間」の概念です。

 

「情報を完全に織り込む」とはなんでしょうか? ボール遊びを上手くできない小学1年生を球技が苦手な子供と分類することでしょうか? 米国インテル社が日本企業の勢いに押されてDRAM事業から撤退した1980年代に、同社を半導体の負け組と認知することでしょうか?

 

運動能力を判断するには、特にプロを目指すのでないなら、体が充分にできていない小学1年生の段階では時期尚早でしょう。高校まで目立たなくても、大学で飛躍する選手も少なくありません。

 

インテル社は1980年代に戦略転換を実行したわけで、そのあとにコンピュータのCPUで覇権を取ったのは説明するまでもありません。当時一部メディアが報道したように日本企業に負かされたわけではなかったのです。しかし現象面の情報だけを集めて判断すれば、「球技の苦手な小学生」「日本企業に負けた半導体メーカー」でも間違いではありません。

心理的余裕がある状態→織り込む時間が「長くなる」

市場が効率的に情報を織り込む機能を持っている、という効率的市場仮説になんの間違いもありません。ただ織り込む際に介在する「人間」自身の時間軸が変化してしまうのです。

 

この時間軸の取り方には心理的な部分が大きく作用します。平和で余裕があるときには時間軸は十分に長いものになります。心理的な余裕が「貪欲」という衣をまとい始めると時間軸はより長くなります。

 

よい表現をすると「余裕がある・視野が広い」という言い方になります。ときには30年先の情報も織り込もうとします。2000年のインターネットバブルの最終局面の楽観が支配した期間がまさに当てはまります。

恐怖にいる状態→織り込む時間が「短くなる」

逆に心理的な余裕が「恐怖」に包まれ始めると織り込む情報の時間軸は非常に短期化し、ひどい場合にはその日一日の動向に支配される、というものになります。緊張で体が縮こまる状況です。この場合「視野が非常に狭い・余裕のない」状態になるわけです。

 

時間軸が足元に限定されるというのは人間が原始的な欲求・情報(食欲、睡眠、生理的欲求など)に突き動かされているのと変わりません。

 

2020年の3月の金融市場はまさにこのような状況にあったといえます。そして2021年は市場参加者の視野が広く、時間軸が長くなる方向への移行を経験する年になるのではないか、と考えています。

 

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