相続人の誰かが遺産分割前に亡くなり、連続して相続が発生することを「数次相続」といいます。今回は、養子縁組をしたら、思わぬ遺産トラブルに巻き込まれた男性の事例をもとに、税理士の岡野雄志氏が「数次相続」について解説します。

両親が納得、「養子」になったもののすぐに…

Hさんは以上のことを承知していたので、そういって両親を説得しました。両親もそういうことならば…と、ようやく納得し、Hさんは遠縁の老夫妻の養子に入りました。

 

このときは、Hさんも、養親が年老いているとはいえ、実際に相続が発生するのは、まだまだ先のことだろうと思っていました。ところが、そのわずか2年後、Hさんは突然の「数次相続」に見舞われてしまうのです。

 

「数次相続」とは、ある方が亡くなって相続が発生し、その遺産分割が終わらないうちに遺産分割協議者(法定相続人)の一人が亡くなり、相次いで相続が発生することです。一人目の遺産分割が決着しないまま、二人目の遺産分割も行わなければいけません。

 

Hさんの養親は、養父が介護施設へ移ったあと、養母が自宅で倒れて他界し、その1ヵ月後に養父が施設で息を引き取りました。寄り添うように生きてこられたご夫妻でしたので、ご本人たちにとっては、ある意味、仲の良い夫婦の理想的な最期だったかもしれません。

 

しかし、慌てたのはHさんです。実親であるご両親も、悲しむ暇さえありませんでした。

 

Hさんは養親の保有財産もよく知らないまま養子になり、同居もしていなかったため、相続財産調査は困難を極める覚悟が必要でした。高齢の養親は片付けも億劫だったのでしょう。整理がついているとはいえない状態で、金庫には鍵さえかかっていませんでした。

 

しかし、そのおかげで、不動産の権利書や預貯金通帳はすぐ見つけることができました。Hさんはまず不動産屋に相談したところ、驚いたことに養親は自宅以外に不動産を複数所有していて、かなりの高額になることがわかりました。これは相続税申告と納税をしなければいけないということになり、不動産業者から当税理士事務所を紹介されたのです。

 

室内が整理整頓されていなかったため、不動産と預貯金以外の相続財産を探し出すのにはかなり苦労され、時間も要しました。ですが、何とか財産調査も終え、必要書類もすべて完璧に揃えて、相続発生から10ヵ月の期限内に相続税申告することができました。

 

Hさんも、これで養子としての役目を果たすことができたと、胸をなでおろしていました。

 

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