あなたの会社に「税務調査は絶対に来ない」という保証はありません。もしものとき、税務調査官からの「質問」にどう対応すべきかわかりますか? ここでは元審判官の筆者が、よくある質問を勘定科目ごとに解説します。今回のテーマは「ゴルフ会員権」について。※本連載は、尾崎真司税理士の著書『税務調査リハーサル完全ガイド(第2版)』(中央経済社)より一部を抜粋・再編集したものです。

ゴルフ会員権は「見解の相違」が生じやすい項目

税務調査官の質問

「ゴルフ会員権に貸倒引当金を設定されていますね。ゴルフ場運営会社の経営状況がわかる資料を見せてください。」

 

【調査官が知りたいこと】

1. ゴルフ場運営会社の破たんの状況は?

2. 預託金が貸倒引当金の設定対象となるか?

3. その他ゴルフ会員権に関して何らかの損失計上をしていないか?

<対応と対策>

1. ゴルフ場運営会社の状況を把握する

 

⇒ゴルフ会員権の時価が著しく下落した場合、会計上は評価損や貸倒引当金の設定により、会員権の貸借対照表価額を引き下げることが要請されます。

 

一方税務上は、評価損の計上や貸倒引当金の損金算入に関して要件が厳しく設定されているため、会計上の評価損や貸倒引当金の損金性について綿密な検討が必要です。ゴルフ場運営会社について何らかの法的手続の申立てや開始決定がなされている場合は、それらに関する通知書などの法的書類を整理し、ゴルフ場運営会社が今現在どのような状況下にあるのか明確に把握することが重要です。

 

2. 税務上の損失計上要件を確認する

 

⇒ゴルフ会員権の価格の下落や価値の毀損について、税務上認められる損失計上方法は図表2のとおりです。

 

※再生型:会社更生手続、民事再生手続清算型:破産、特別清算
[図表2]ゴルフ会員権に関する税務上の損失計上 ※再生型:会社更生手続、民事再生手続清算型:破産、特別清算

 

預託金制のゴルフ会員権の預託金は、そのままでは法人税法上の金銭債権には該当しません。銀行預金と同様、他者に対する単なる預け金として取り扱われます。預託金に対して貸倒引当金や貸倒損失が計上できるのは、預託金の性質が金銭債権に転換した場合に限定されています。

 

会計上の取扱いと大きく異なり、損金算入要件が複雑であるため、別表調整誤りが多発しやすい項目です。

 

3. 代表者に対する売却は、売却事実に疑念が持たれないようにする

 

⇒ゴルフ会員権の含み損は、他者に売却することにより実現させることができます。ただし、売却先が会社代表者や同族関係者である場合は、売却の目的に合理性が求められることはもちろん、売却事実の立証に注意が必要です。売却に関する取締役会決議、売買契約書の締結、代金の決済、会員権証書の引渡し、名義書換、年会費の精算等、実態の上でも形式上も売却の事実が説明できるようにする必要があります。

 

代表取締役の取締役退任に際し、ゴルフ会員権を退職金の一部とすることもありますが、退任とは名ばかりで引き続き経営に従事している実態があったり、ゴルフ場の利用状況に何ら変化がない場合は、調査官は、含み損実現のための仮装行為ではないかと勘ぐるでしょう。

 

調査官は租税回避行為と指摘する、納税者は経済合理性のある行為と主張する、いわゆる「見解の相違」が起きやすい項目です。代表者と会社との取引には、誰が聞いても納得できるような理由が必要です。

 

 

尾崎 真司

税理士/あいわ税理士法人 パートナー

元国税不服審判所国税審判官

 

 

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調査官の「質問」の意図を読む 税務調査リハーサル完全ガイド(第2版)

調査官の「質問」の意図を読む 税務調査リハーサル完全ガイド(第2版)

編:あいわ税理士法人

著:尾崎 真司

中央経済社

税務調査官の「質問」にどう応える? 国税不服審判所に勤務経験のある著者が解説! 自分の会社は税務調査の対象にはならない…そう油断してはいませんか。確かに調査の頻度に差はあるかもしれませんが、調査に来ないという…

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