あなたの会社に「税務調査は絶対に来ない」という保証はありません。もしものとき、税務調査官からの「質問」にどう対応すべきかわかりますか? ここでは元審判官の筆者が、よくある質問を勘定科目ごとに解説します。今回のテーマは「土地」について。※本連載は、尾崎真司税理士の著書『税務調査リハーサル完全ガイド(第2版)』(中央経済社)より一部を抜粋・再編集したものです。

租税回避行為の隠れ蓑か?疑われやすい「土地取引」

税務調査官の質問

「社長から土地を購入しているようですね。売買価格はどのように決定されましたか? 購入した土地はその後何に使用していますか?」

 

【調査官が知りたいこと】

1. 土地取得時の時価と売買価格に乖離はないか?

2. 土地購入の目的は?

3. 取得に係る付随費用は土地取得価額に算入されているか?

4. 建物付土地を購入後すぐに建物を取り壊していないか?

<対応と対策>

1. 同族関係者との取引価格は、金額の根拠を明確にする

 

⇒調査官が指摘してくる発端は「何となく疑わしい。租税回避行為ではないか」という疑念です。恣意性や操作可能性が介入しやすい取引が税務調査において指摘事項になりやすく、特に代表者や同族関係者、同族会社間の取引には、その裏に租税回避行為が隠されているのではないかと調査官は考える傾向にあります。調査を受ける側としては、取引の経済合理性の説明と、恣意性や操作可能性が介入していないことの立証が何より重要です。

 

代表者所有の土地を会社が買い取る場合、買取価格は時価でなければなりません。時価より低額で買うと、会社側は時価と買取価格との差額が受贈益として課税されます。買取価格が時価の2分の1未満の場合は、代表者側も時価で譲渡したものとして譲渡所得を計算する必要があります。

 

反対に時価より高額で買うと、会社から代表者に対して利益供与があったものとされ、買取価格と時価との差額が代表者に対する給与と認定されます。この給与は役員に対する臨時の給与であるため法人の損金にならないだけでなく、給与に係る源泉徴収漏れがあったとして追加納税が必要になります。

 

買取価格は、鑑定評価に基づくか公示価格に準ずる価格とするなど、明確な根拠が必要です。税務調査では必ず確認されると考えていたほうがよいでしょう。

 

2. 購入目的の経済合理性を重視し、意思決定の経緯を明確にして手続きに不備がないようにする

 

⇒代表者との取引は、取引価格とともに、取引の目的も重視されます。代表者と会社の取引は、代表者の任意で決定されやすいため、調査官は、その取引の裏に租税回避行為が隠れているのではないかと考えるのです。

 

例えば、代表者個人が所有する土地Aを第三者に売却して、多額の譲渡益が出たとします。たまたま代表者は、含み損のある別の土地Bを有していました。代表者は土地Bを自身が代表を務める同族会社に売却したため、土地Bの売却損が土地Aの売却益と通算され、土地Aの譲渡益課税が回避されました。

 

このケースで、土地Bが代表者の自宅の土地であり、同族会社に譲渡後も引き続き自宅土地として使用している場合は、たとえ代表者が同族会社に土地賃借料を支払うことにしたとしても、土地Bの譲渡自体に経済合理性がないと認定されるでしょう。譲渡後に所有権移転登記をしていなかったり、土地売買契約書自体が作成されていなかったりすると、土地の譲渡そのものがなかったものとみなされるでしょう。

 

一方、代表者が土地Bを何の用途にも供していなかった場合で、同族会社が自社工場の敷地の用に供するために代表者から購入し、工場の建設も進めているような状況であれば、代表者から同族会社への土地Bの譲渡は経済合理性のある行為として認められるでしょう。

 

代表者と会社との取引には、誰が聞いても納得できる理由が必要です。加えて、社内稟議でその理由を明確にすることや取締役会で決議するなど、意思決定までの経緯を明らかにする必要があります。また、登記が必要なものは速やかに登記を行い、法的手続きにも不備がないような細心の注意が必要です。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

3. 付随費用が費用計上されていないか確認する

 

⇒土地を購入した際の仲介手数料や不動産鑑定料などの費用は、取得に係る付随費用として土地の取得価額に算入しなければなりません。誤りやすいのは、売主と買主との間で未経過固定資産税の精算をした場合です。未経過固定資産税は、税金そのものではなく、土地の売買代金に上乗せされたものと考え取得価額に算入します。

 

4. 使用目的を変更した場合は、変更理由と変更時期を社内資料で明確にする

 

⇒建物付きの土地を購入した場合で、取得後おおむね1年以内に建物の取壊しに着手するなど、当初から建物を取り壊して土地を利用する目的であることが明らかなときは、建物の取壊時における帳簿価額と取壊費用の額は、土地の取得価額に算入することとされています。

 

建物除却損と取壊費用を費用計上している場合、税務調査では土地建物の取得目的が厳しく追及されます。会社側は「取得時には建物をそのまま利用する予定だったが、その後状況が変わって取り壊すこととした」と主張するでしょうし、調査官は「当初から土地のみを利用する目的で取得したのではないか」と指摘してくるでしょう。

 

このとき威力を発揮するのが各種社内資料です。取得時の社内稟議書に「土地付き建物を取得し、一部改装の上店舗として使用する」旨が記載されていれば、当初の利用目的が明確になります。その後「先般の地震により建物が一部毀損したため、やむなく取り壊すこととし、店舗用建物を新築することとした」旨が稟議書に記載されていれば、取得後に生じた理由により取り壊したことが明確です。取得時点の建物が既に老朽化していたとしても社内の意思決定の経緯が明らかに残されていれば、税務調査で否認することは困難なのです。

元審判官によるコーチング

形式面(形式的手続)の重要性

 

実質・実態は何から確認ができるでしょうか? 例えば、“物がそこにある”というのは事実として目で確認することができます。では、「所有権が移転している」というのはどうでしょうか? 所有権の移転は目では確認できません。そこで、移転したという実質(管理支配している)を、売買契約書の作成、売買代金の授受、所有権の移転登記という形式面で補強するわけです。

 

 

尾崎 真司

税理士/あいわ税理士法人 パートナー

元国税不服審判所国税審判官

 

 

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