第三者に会社を売却して事業承継を行う「M&A」
中小企業を経営しているオーナー社長の身内に後継者がいない場合、次の4つの選択肢を考えることになります。
①社内での事業承継
②株式公開
③廃業・清算
④M&A(第三者への事業承継)
①は、例えばオーナー社長の右腕といわれているような幹部や、ベテラン社員を次期社長として立てる手法です。
②は、株式を市場に公開することで上場企業となる方法です。
③は企業活動自体を停止して、自主的に会社を解散、つまり廃業するという方法です。
最後の④が本連載の中心テーマで、第三者に会社を売却することで新しい資本体制の下、事業を続けていくという選択肢です。
【図表1 親族間に後継者がいない場合はこの4つ】
社内事業承継では経営力のある人材を見つけにくい!?
では、一つずつメリットとデメリットを見ていきましょう。
まず①ですが、外部の人材や文化が入ってこないことから、今までの体制を維持できるというメリットがある一方で、残った社員をリードしていく「経営力のある最適な人材」を見つけにくいという問題があります。
雇う側と雇われる側では、大きな差があります。内外からの人望が厚く、営業成績や技術に秀でた優秀な社員であっても、全体のバランスを考えて経営の舵取りを判断していけるかどうかは別の才能です。金融機関との付き合いをはじめ、資金繰りなどの苦労も社長にはつきまといます。また、リタイアするオーナー社長から株式を買い取る資金力と、借入金などの個人保証を引き継ぐ資産力・信用力も必要です。オーナー社長の後を継ぐというのは至難の業なのです。
②の株式公開が実現すれば、オーナー社長だけでなく従業員もストックオプションなどで大きな上場利益を手にできる可能性があります。社会的な信用も上がり、企業活動自体がやりやすくなるというメリットもあります。
とはいえ、上場はハードルが高く、小規模な上場でも維持コストが年間1億〜2億円程度は必要となります。さらに、オーナー企業のようなトップダウンの経営が行いづらく、以前のような迅速な経営ができなくなるという可能性もあります。
③の廃業・清算については、事業を承継しないわけですから、基本的にメリットはありません。逆にデメリットは大きく、職を失う従業員とその家族、取引先への影響など、多岐にわたります。
現実的でメリットも大きい「M&A」という選択肢
④のM&Aのメリットはたくさんあります。
まず、廃業・清算とは違って会社が存続するのですから、従業員の雇用を維持できます。そのうえ、株式公開に比べて極めて現実的です。取引先や同業の会社だけでなく、シナジー効果を求める異業種からの買い手が見つかることも多いからです。
上場企業や名の知れた大企業に買収されるケースなどでは、そのグループに入れるということで、残った従業員の勤労意欲アップや福利厚生の充実につながることも多いのです。
さらに、オーナー社長にとっても、清算で手元に残る金額よりM&Aによる事業承継のほうが一般に“手残り”が多くなるという現実的なメリットも見逃せません。
M&Aのデメリットとしては、旧体制の維持が難しくなるということが挙げられます。ただし、この点は買い手との事前の協議のなかで、譲れない条件などを詰めておくことで緩和することが可能です。
【図表2 ”4つの選択肢”それぞれのメリット・デメリット】