大切に育てた会社が「マネーゲーム」の材料に…!?
M&Aによる事業承継が一般化してきたとはいえ、いまだに、生理的な拒否反応を示す中小企業のオーナー社長がいることも事実です。
その理由としては、大きく二つが考えられます。
一つは内的・心理的な要因です。米投資ファンド、スティール・パートナーズによる日本企業への多額の出資やライブドア事件に象徴されるように、かつては敵対的なM&Aが頻発しました。そのためか、M&Aイコール、マネーゲームという印象が先に立ってしまうのです。
日々の経営や資金繰りに腐心し、二度のオイルショックや近年のリーマンショックなど幾度もあった不景気を乗り切ってここまで育ててきた会社を、マネーゲームの材料にはしたくないと考えるオーナー社長は少なくありません。
「自分だけがトクをした」と周囲から誤解される恐怖
もう一つは外的な要因、言い換えれば従業員や取引先といった周囲の目を気にしての躊躇です。
例えば、株式公開にはストックオプションがつくこともあります。オーナー社長はもちろんとして、現場の一従業員にも自社株や新株の予約権が与えられ、株式上場を果たした後に、大きな利益に結びつくことも多いのです。
株価が堅調である限りは、会社の目標と従業員の目標・利益はおおむね一致しており、誰もがハッピーになれるというストーリーが描けます。これに対して、M&Aにつきまとう一種の誤ったイメージは、「社長だけが儲けているのではないか」というものです。
実際には、既に述べたように会社の存続や経営の安定化、従業員の雇用の継続、さらには買い手が大手などの場合にはブランド力の付加など、M&Aによって現場の従業員も有形無形のメリットを受けることができます。
けれども、そういったメリットを理解していないオーナー社長は、周囲が見る経営者人生の最後の印象が“自分だけがいい思いをした利己的な社長”で終わるのではないかと案じてしまうのです。
このように内的、外的な要因からくる誤ったイメージは捨て去る必要があります。今やM&Aは、会社と関係者を幸福にする、常識的な選択肢の一つといえるでしょう。
【図表 M&Aを躊躇してしまうオーナーの心境】