多くの人にとって「介護」は、ある日突然、心の準備もないままに始まります。高齢となった親をもつ人なら、いつ降りかかってもおかしくない問題なのです。在宅医である筆者が、自身の両親の介護や看取りの経験を交えながら、自宅で介護をする家族が抱える問題や悩みを、どのように解決したのかを紹介します。

今後の「道のり」が見えれば、介護疲れも軽減可能に

私自身は、これまで真面目に両親の面倒を見てきたと思っています。

 

私たちの心の底には親に対する「孝心」がありますが、まったく疲れを感じなかったわけではありません。特に最初のこの時期は慣れない生活に悪戦苦闘の毎日だったと思います。

 

しかし、そもそも、疲れ果てた状態で介護を続けていては、介護される側にもよい結果をもたらさないのです。ささいなミスを犯したり、苛立って口調が荒くなったり、ときには虐待にまで進むこともあります。介護疲れからの殺人という話を耳にすることがありますが、たいてい真面目に面倒を見過ぎていることから起きています。

 

ところが、私は介護による後遺症のような状態には陥らずに済んだのです。

 

どうしてだろうと考えてみますと、私が医師であり、両親のかかりつけ医であり、在宅医でもあったからということももちろんありますが、それ以上に、早めの段階でほかの医師やヘルパーさん、訪問看護師に助けてもらったからだと思います。

 

介護による疲弊、特に精神的な疲れは、先が予測できないことから起こる部分が大きいと思います。私が介護をスタートさせた当初は、それまで一人暮らしで自分の生活を考えるだけでよかったし、医師の生活は昼夜を問わないため、その日によってリズムもバラバラです。しかし、両親と一緒に生活を始めると、三人分の生活リズムを把握しなければなりません。

 

さらに、高齢者の病状というのは変化が急なものです。気づかないうちにどんどん病気は進行していき、その状況にさらに動揺してしまうという悪循環が起こってしまいます。医師でありながら私も、いつの間にここまで進行していたのか、と驚くことがありました。一緒に暮らしていなければもっと変化に気づくのが遅れていたかもしれません。

 

できれば介護が始まる前が理想だとは思いますが、介護が始まったあとでも、早めの段階でそのあとの介護生活の道のりが想定できていれば、疲れはかなりの部分を軽減できるのだと、この時期以降に私は改めて実感していきました。

 

 

佐野 徹明

医療法人さの内科医院院長

 

 

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48歳、独身・医師 在宅介護で親を看取る

48歳、独身・医師 在宅介護で親を看取る

佐野 徹明

幻冬舎メディアコンサルティング

開業医である父が突然倒れた。父の診療所を継ぎ、町の在宅医としてそして家では介護者として終末期の両親と向き合った7年間。一人で両親を介護し看取った医師による記録。

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