理由2:「小規模宅地等の特例」が使えなくなるから
2つ目の理由は、「小規模宅地等の特例が使えなくなる」ケースがあることです。
※小規模宅地等の特例とは、「亡くなった人が自宅として使用していた土地については、8割引きの金額で相続していいですよ」などという制度です。
相続まで待てば小規模宅地等の特例で、土地を80%OFF又は50%OFFで評価することができたのにも関わらず、生前贈与で不動産を親から子供へ移してしまうと、その評価減のメリットを受けることができなくなるケースがあるのです。
理由3:「3年以内の贈与」がなかったことになるから
3つ目の理由は、「3年以内の贈与だと、贈与がなかったことになってしまう」です。
相続で財産をもらう人が、亡くなる日の前3年以内に贈与で財産をもらっているときには、その財産の金額は相続税の計算対象となります。
もちろん贈与のときに支払った贈与税は相続税から控除されるので、二重で税金が取られることはないのですが、せっかく相続対策で生前贈与をしたのに、結局相続税の対象になるのでは、意味がないですよね。
しかも、登録免許税・不動産取得税は贈与の時に、相続より10倍ほど高い税金を支払ったままで、相続の低い税率で計算をし直されることはありません。
つまり、生前贈与による節税の意味がなくなるだけでなく、登録免許税・不動産取得税は損をしたままなのです(図表2)。
もちろん賃貸不動産の場合、建物を親から子供に移すことで、その賃貸不動産から入ってくる収入が、贈与以降、親から子供へ移るという効果がなくなることはありません。そのため、賃貸不動産の場合には、3年以内の贈与でも得になるケースもあります。ただし、シミュレーションをせずにそこに期待するのはやめましょう。
「生前贈与」したほうがいい不動産とは?
ここまで、「贈与で不動産を移すと損をするかもしれない」という話をしてきましたが、もちろん得になる不動産もあります。それは、「古い賃貸物件」です。ここでのポイントは、古いこと・賃貸物件であること、そして、土地は贈与せず建物のみを贈与することです。
「古い賃貸物件」だと得をする理由は2つです。
(1)登録免許税・不動産取得税が高額にならない
1つ目の理由は、今までお話してきた登録免許税等の金額が、高額にならない点です。
築年数が経っていると、税率を掛けるベースである固定資産税評価額もかなり低くなっていることが想定されます。ゆえに、いくら税率が高くても税金があまり高くならない可能性が高いのです。
また、土地は贈与せず建物のみを贈与することで、高額な土地の税金の影響を受けなくて済みます。
(2)賃貸物件から生まれる儲けを子どもに移すことができる
2つ目の理由は、賃貸物件から生まれる儲けを、親から子どもへ付け替えることができる点です。
賃貸物件から生まれる儲けは、土地ではなく建物に紐づいています。そのため、土地は贈与せず、建物のみを子どもに贈与しても、その儲けの帰属先は子どもに移動します。その結果、毎年の賃料収入で親の将来の相続財産増加することをストップする効果があるのです。
これら2つの理由から、古い賃貸物件は、生前贈与したほうがお得なケースがあります。その際には、普段はあまり日の目を見ない「相続税精算課税制度」が効果を発揮することもあります。
※相続税精算課税制度とは、「生前贈与をするときは2500万円まで贈与税を非課税にしますが、贈与した人が亡くなった時には、その人の遺産だけでなく、過去に生前贈与した財産も一緒に、相続税を課税しますよ」という制度のことです。
さらに、不動産を所有する親の年齢、建物の固定資産税評価額、建物から生まれる利益の金額などを複合的に見て判断する必要があります。
なお、古くなくても高収益物件などは、生前贈与をした方がお得なこともあります。不動産ごとのシミュレーションは必ず行いましょう。