新型コロナウイルス感染拡大で医療現場はひっ迫し、医療崩壊ともいわれるなど、現場の医師や看護師、そして病院に注目が集まった。全国に緊急事態宣言が出された大混乱のさなか、ある医師から一本の電話がヘッドハンターにかかってきた。「どうやら資金ショートの噂が広がり、来年の春まで持たない。紹介できる病院はないか」と。もはや病院といえども安心の職場ではなくなった。ヘッドハンターが医師の転職の舞台裏を明かす。
登録型の人材紹介に流れるベテラン医師たち
一方で、例外もあります。コロナ以前に転職を決め、今年4月以降に入職予定の先生は、遠方でも予定通り転職します。内定の取り消しもありません。もともと弊社のクライアントは経営的に優れた病院だけです。公的病院では内定取り消しの話をよく聞きますが、弊社に限っては、それはありません。実際、東北から関西へ転職する先生の場合、ご家族は「こんな時期に」と心配されていますが、コロナはいずれ終息しますし、将来を考えれば遠方であってもやりがいを持てる病院で働きたいということで、その先生は「不退転の決意」で計画通り行きますということです。
実はここまで述べてきたこととは別に、医師の転職市場においてもう一つ大きな変化が起きています。本連載第1回で、医師の転職の大半は、登録型の人材紹介会社を通じてのものだとご説明しました。転職を考えている医師は人材紹介会社に登録し、医師を求めている医療機関とのマッチングを行うというものです。それに対して、当社はクライアントである病院からの依頼を受け、最適な医師を見つけ出して紹介する100%サーチ型の人材紹介会社です。
私は過去に接触を持った先生方に時折、近況伺いでメールをお送りしますが、今回のコロナ禍で、登録型の紹介会社を使って転職活動を始めたという先生が何人かいました。私が接触する先生方は、これまで登録型の人材紹介会社は使っていませんでした。その必要性がなかったからです。
弊社がターゲットにする先生は、大学病院に属しているケースが比較的に多く、かつ年齢的に40代以上である程度の立場や実績を持った先生が中心になります。そういう優秀な先生方は人材紹介会社に登録しなくても、あちこちから転職の話が舞い込んできますから、登録しなくてもいいという心理が働きやすいのです。
ところが、その先生方の中に人材紹介会社に登録して活動を始めたという先生が出てきたのです。それは仕方のない面もあります。私たちがヘッドハンティングで扱うわずかな案件数に比べ、登録型の紹介会社は全国すべての医療機関を網羅するくらいの規模です。登録料は無料ですし、転職を考えている先生が登録型に流れるのは自然なことだといえます。
また、従来は遠方への転職が基本でしたが、人間関係が多少悪くなったとしても、近隣周辺での転職に目を向けていることがわかりました。先ほども述べましたが、コロナ禍の現在、遠方への転職は、家族の反対などもあって難しくなっています。そこで近隣の病院を探すという傾向が強まっているのです。特に第1期の後半、5~6月あたりからこの流れが加速したように感じます。
このようにコロナ禍で、医師の転職市場ではさまざまな変化が生まれていますが、実は転職を希望する医師にとっては逆風ともいえる大きな動きが出ているのです。それは次回にご説明したいと思います。
(※本インタビューは、2020年12月27日に収録したものです)
武元 康明
半蔵門パートナーズ 社長
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半蔵門パートナーズ
社長
1968年生まれ、石川県出身。 全日空エンタプライズ・シンガポール航空・ニュージーランド航空を経て、1998年に人材ビジネス業界へ転身。23年の人材サーチキャリアを持つ、経済界と医学界における世界有数のトップヘッドハンター。 現職は2008年より。
欧米的な職務能力だけ評価するヘッドハンティングではなく、人物像まで評価し、依頼主のマネジメントスタイルや経営ステージに合わせたマッチングが必要との独自のマッチング理論を確立・実践し、評価を受けている。現役ヘッドハンターとしてクライアント対応から候補者インタビューまで幅広く手がけ、毎日、全国各地を飛び回る。
江口洋介主演・テレビ東京ドラマBiz「ヘッドハンター」監修をはじめ、CM出演、東京外国語大学ビジネスキャリア・講師&科研費事業研究メンバーとしても活動中。執筆・出版多数(寄稿文が大学入試問題にも採用)、最新書籍は河出書房新社「超一流ヘッドハンターが教える!30代からの『異業種』転職成功の極意」。
趣味は全国のうなぎ屋巡り、持ち帰った箸袋をホームページで公開中。
著者プロフィール詳細
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連載「医師の転職事情」金持ちドクターと貧乏ドクターの分かれ目