●バイデン氏の追加経済対策は、市場予想を大きく上回る1.9兆ドルの規模、家計重視の内容に。
●追加経済対策に関しバイデン氏は共和党との合意を図る模様だが1.9兆ドル規模は実現困難か。
●来月インフラ投資や増税に言及か、市場は経済対策の時期や規模などを冷静に見極める局面へ。
バイデン氏の追加経済対策は、市場予想を大きく上回る1.9兆ドルの規模、家計重視の内容に
バイデン米次期大統領は1月14日、新型コロナウイルスの感染拡大に対応する1.9兆ドル規模の追加経済対策、「American Rescue Plan」を公表しました(図表1)。市場では、1兆ドル前後の規模を予想する向きが多かったため、今回はかなり大型の経済対策となります。具体的には、家計支援に約1兆ドルが計上され、家計への現金給付は、高所得層を除き、1人当たり最大1,400ドルが支給される見込みです。
また、失業給付の特例加算は、9月までの延長と、週400ドルの上乗せが盛り込まれています。家計支援のほかにも、コロナ対策としてワクチンの配布などに1,600億ドル、州・地方政府への財政支援として3,500億ドル、中小企業対策として500億ドルが、それぞれ充てられています。最低賃金については、2倍の時給15ドルに引き上げるなど、低中所得層への配慮がうかがえます。
追加経済対策に関しバイデン氏は共和党との合意を図る模様だが1.9兆ドル規模は実現困難か
なお、報道によれば、バイデン氏は追加経済対策の関連法案を議会で可決するにあたり、共和党との合意を図る模様です。この場合、1.9兆ドルの規模が、そのまま実現されることは難しいように思われます。例えば、民主党が主張する州・地方政府への財政支援について、共和党は反対の立場であり、昨年12月に成立した9,000億ドル規模の経済対策第4弾では、結局、民主党の意向は反映されませんでした。
また、民主党の公約である最低賃金の引き上げが、今回の追加経済対策に含まれた点についても、共和党の理解を得ることは困難とみられます。一方、家計への現金給付は、一定程度、共和党の支持を得られる可能性はありますが、同党の財政保守派の反発も予想されます。上院での法案可決に60以上の賛成票が必要の場合、少なくとも共和党議員10人の賛成を得なければならず(図表2)、今後、バイデン氏の手腕が問われます。
来月インフラ投資や増税に言及か、市場は経済対策の時期や規模などを冷静に見極める局面へ
現実的に考えれば、バイデン氏は、追加経済対策の内容について共和党と協議を進め、合意が得られたものから順に実行していくことが想定されます。ただ、最終的な規模は1.9兆ドルに満たず、弊社では引き続き1兆ドル程度での着地を予想しています。しかしながら、そもそも1兆ドル規模の経済対策でも、相当大型であり、2021年の米経済成長率を少なくとも0.5%ポイントは押し上げることができるとみています。
バイデン氏は、今回の追加経済対策を「第1弾」と位置付けており、2月の上下両院合同議会で「第2弾」のより広範な経済回復プランを公表すると述べています。第2弾では、インフラ投資や増税への言及が予想され、2022会計年度(2021年10月1日から2022年9月30日)の実施が見込まれます。市場はこの先、バイデン氏の施策について、期待先行の局面から、時期や規模などを冷静に見極める局面に移行していくと思われます。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『バイデン氏の追加経済対策~1.9兆ドル規模は実現困難?』を参照)。
(2021年1月18日)
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト