グローバルに事業展開する企業に、財務・法務・労務人事に特化したアウトソーシングサービスを提供するTMFグループ。世界最大規模のトラスト専門事務所としても知られる。その香港拠点となるTMF香港リミテッドの取締役で、プライベート・クライアント・ヘッドを務めるアンドリュー・ホー氏に、昨今注目を集める「オフショアトラスト」の仕組みや活用方法などを伺った。聞き手は、香港の新しい金融機関であるニッポン・ウエルス・リミテッド(NWB/日本ウエルス)の長谷川建一COOである。連載2回目は、オフショアトラストの具体的な仕組みなどを取り上げる。

資産隠しを目的にトラストを利用するのは間違い

長谷川 トラストの仕組みについてお伺いします。現金をトラストで運営したいというケースであればおおよそ想像がつきますが、証券や美術品であったり、土地や家といった不動産、家業などのビジネスなど、資産の形態が違うと、やはり運営方法も異なるでしょうか?

 

 

アンドリュー 概して、資産が現金や有価証券など担保可能資産の場合は、オフショア法人を設立し、その法人名義で口座を開設します。不動産の場合は、保有する不動産によってどのような税制や法令に従うべきか留意し、どんな形態をとるべきか検討します。例えば、香港で所有する不動産であれば、香港の印紙税を支払い、所有権譲渡の手続きを行う必要があります。多様な手続きに手間とコストがかかりますが、相続させる頃には価値が上がり、大きな財産となっている可能性があります。そして、子供に相続させる場合、複数で分ける、それぞれの分配割合が異なるなど多様なリクエストがあるかもしれません。土地や建物を分割するのは容易ではありませんが、トラストの形をとると様々なニーズに対応できます。

 

長谷川 家族のためにトラストを設定する場合、資産を所有する委託者が受益者を選定するとのことですが、委託者は受益者として選定された人に、それを伝える義務がありますか?

 

アンドリュー 特に伝える義務はありません。委託者次第で、ケースバイケースです。例えば、子供が生まれる前から、将来生まれる子供を受益者とする場合もあります。また、子供の頃から親の資産を当てにして育って欲しくないので、子供には伝えたくないと考える親も多いです。自分の子供に資産の管理ができるかどうか定かではないと考える場合は、100億円の資産を持つ自分に何かが起こった時、子供が18歳で突然100億円手にすることは、子供にとって良くないと考える親もいるでしょう。そのような場合でも、事前に20歳を迎えてから毎年分割して指定した金額を子供に与えるなど、計画的な活用ができるのも、トラストの魅力です。

 

長谷川 税金の面ではどうですか? 脱税目的のためにトラストを活用するというのは論外だと思いますが。

 

アンドリュー 当然のことながら資産隠しを目的にするのは間違いです。受託者である我々のような会社は、厳しい法令に従ってビジネスを行っています。マネーロンダリングを防止するためのルールも整備されており、合法的な資産のみを受け入れの対象としています。

 

長谷川 もしも、税当局などの検査があり、情報開示を求められた場合は、どのように対応するのですか?

 

アンドリュー あまり無いケースですが、もちろん、法的拘束力のある要求であれば、それに従い開示を行います。

トラストへの譲渡で資産が債権者から守られる場合も

長谷川 もしも委託者や受益者が資金繰りに困り、借り入れを行ったものの返済できなくなってしまった場合、トラストにある資産が返済にあてられたり、貸し手がトラストに託されている資産から返済を要求できるのでしょうか?

 

アンドリュー それは、トラスト設定時にどのような規約があったかによります。例を挙げて話すと、ある医師が自分のクリニックを開業し資産を築き、クリニックと資産を自分の子供に託すためにトラストを設定したとします。この場合、医師は委託者であり、その資産は受益者である子供のために管理されています。数年後、医師は銀行から借り入れを行いましたが、病院は借金を抱えたまま倒産してしまいました。仮にそのトラストが取消不能の条件で設定されている場合、医師自身に貸付けを行った銀行がそのトラストの資産に対して取り立てを行うのは非常に難しいでしょう。医師が債権者からの取り立てを逃れるためにトラストを設定したということが証明されれば別ですが。

 

 

長谷川 なるほど。自分の資産であっても、トラストに譲渡して裁量を失う反面、債権者からは資産を守ることができる場合があるということですね。

本稿は、情報提供を目的として、インタビュー時点での経済データ等をもとに個人的な見解を述べたもので、TMF香港リミテッドおよびNWBとしての公式見解ではありません。また、特定の金融商品への投資の勧誘を目的とするものではありません。

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