グローバルに事業展開する企業に、財務・法務・労務人事に特化したアウトソーシングサービスを提供するTMFグループ。世界最大規模のトラスト専門事務所としても知られる。その香港拠点となるTMF香港リミテッドの取締役で、プライベート・クライアント・ヘッドを務めるアンドリュー・ホー氏に、昨今注目を集める「オフショアトラスト」の仕組みや活用方法などを伺った。聞き手は、香港の新しい金融機関であるニッポン・ウエルス・リミテッド(NWB/日本ウエルス)の長谷川建一COOである。

資産の継承、財産保全、租税効率対策が設定の主な理由

長谷川 パナマ文書の流出で、昨今毎日のように新聞でオフショアファンドやトラストに関する記事を目にし、世間の関心が高まっていることを肌で感じます。当然、合法的に運営されているわけですが、何故このような形で取り沙汰されているのか。そもそも、オフショアにトラストを設定する理由は何なのか。疑問に感じている方が多いと思います。まず、オフショアトラストを設定する動機がどんなものなのか、教えていただけますか?

 

アンドリュー オフショアトラストの設定の理由としては、資産の継承、財産保全、租税効率対策が挙げられます。このような理由からトラストを設定し、その仕組みを利用して、自分の資産を自分の人生設計に従って管理するわけです。例えば、自分の資産を子供に託すためにトラストを設定し、その後、第2子が産まれたら継承方法を変更する。そして、託す際に最善となる租税効率対策を検討する。と、いうように、トラストという仕組みを資産の管理に活用します。

 

 

長谷川 どのような方が、トラストを設定されるのでしょうか?

 

アンドリュー お客様の多くは富裕層の方々です。起業家、事業主を中心に、ご自分で富を築き、ある程度まとまった資産をお持ちの個人の方が、その資産をどう継承するかと考える際に、トラストの設定という選択肢を取られる方が多いです。資産の継承と聞くと、家族間の相続を思い浮かべる方が多いかと思いますが、従業員の利益等も考えて、ビジネスの継承に使われるケースもあります。

 

長谷川 資産継承の観点からトラストを設定するということは理解できますが、何故、オフショアに設定するのでしょうか? 母国での設定と違って、どういう利点があるのでしょうか?

 

アンドリュー 法律や税制が明確で安定的に運営されている国で資産を管理する方が好ましいと考えるからです。資産を長期にわたり管理するのが目的ですから、関連する法令により永続性のある方が、計画的に資産を管理できます。

 

長谷川 なるほど。

トラストを設定する目的によって「受益者」も変わる

長谷川 では、どのように運営されているか、順を追って説明していだけますか?

 

アンドリュー 一般に、資産を拠出する人(委託者)が、受託者に資産を譲渡します。受託者はそれらの資産を保有し、将来資産から生じる利益を享受することになる受益者に対し、受託者責任を負います。資産は受益者のために運営され、委託者自身が受益者になることも可能です。トラストの設定により、各者の法的な役割が明確化されます。受託者が財産の法的所有者となり、資産受け取りの権利がある受益者の最善利益のために資産の管理ならびに運営を行います。トラストを設定する目的は様々で、その目的によって、受益者も変わってきます。

 

長谷川 具体的に言うと、資産家が子供に資産を相続させたい場合、資産家が委託者となり、御社をはじめとする受託者に資産を譲渡し、相続させたい子供が受益者となるのですね。そして、例えば、従業員のベネフィットとする場合は受益者を従業員に、寄付したい場合は受益者をチャリティー財団等に設定する。

 

アンドリュー そうです。自分が築いた富を、寄付という形で社会に貢献したいと考える人が近年増えていて、そういった場合にもトラストの設定が活用されます。そして、資産は現金に限らず、起業したビジネスであったり、美術品など多岐にわたります。受託者は資産の形態に関わらず、トラストというスキームを利用して、関連法に従って資産を管理、運営します。

 

長谷川 資産家の寄付というと、フェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグは子供が生まれた際に、自分が保有する株式を寄付すると発表したことを思い出しました。称賛の声が聞かれる一方で節税対策だとの見方もありましたね。

 

 

アンドリュー ザッカーバーグ氏のケースを詳しくは見ていませんが、彼ほどの富を築いた人であれば、トラストや財団を設定することで資産を管理していこうと考えるのは当然のことだと思います。今は事業が成功していますが、状況が変わった時にどうなるのか。また、もしも彼に何か起こった時、子供たちへどのように継承されるのが最適なのか。人生の中で何が起こるかわからないですが、どのような場合においても最善策を取りたいと考えるのは当然です。彼が設定したものがどのような形態で、オフショアなのかオンショアなのかもわかりませんが、どちらの場合でも、税金の面からも専門家の見解を受けて、彼と家族にとって最適な形が取られたのだと想像します。

 

本稿は、情報提供を目的として、インタビュー時点での経済データ等をもとに個人的な見解を述べたもので、TMF香港リミテッドおよびNWBとしての公式見解ではありません。また、特定の金融商品への投資の勧誘を目的とするものではありません。

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