近年では相続税の課税はますます重く、また、これまで許容されていた対策にも規制がかかるなど、非常に厳しいものとなっています。大切な資産を減らすことなく無事に相続を乗り切るには、どのような手段があるのでしょうか。「相続実務士」のもとに寄せられた相談実例をもとにプロフェッショナルが解説します。

父の死後、自分の思い通りに相続を主導する兄嫁

◆兄亡きあともここで暮らしたいという兄嫁は、両親の養子に

 

今回のご相談者は、50代の女性、佐々木さんです。佐々木さんの兄は長男で、結婚してから実家で両親と同居してきました。ところが兄は両親よりもずっと早く、30年も前に急な病で亡くなったとのことでした。

 

兄が亡くなったあと、兄嫁から「これからも夫の実家で両親と暮らしたい、老後も面倒を看るので養女にしてもらいたい」という申し出がありました。両親も、これまで毎日一緒に生活していたのだからと、兄嫁との養子縁組を承諾し、以降、佐々木さんの両親と兄嫁、そして2人の甥姪との生活が続きました。

 

 

30年経って2人の子どもはそれぞれ家を離れて独立し、佐々木さんの実家には両親と兄嫁が暮らすようになりました。

 

そして3年前、佐々木さんの父親が亡くなりました。相続人は母親、兄嫁、佐々木さん、甥姪の5人となりましたが、兄嫁がすべてを段取りし、兄嫁の希望通りの遺産分割となりました。母親は財産の半分で自宅と預金、佐々木さんは現金、残るアパートと預金は兄嫁たちが相続しました。佐々木さんが一番少なかったのですが、母親が世話になるからと譲歩したのです。

 

あああ
アパートと預金は兄嫁たちが相続

 

◆介護が必要になった母を「ストレスになるから、面倒を看て」と…

 

ところが最近になって、兄嫁から「母親と生活するのはストレスになるから、佐々木さんが面倒を看て」と、たびたび連絡が来るようになりました。

 

80代となった母親は介護が必要になってきたため、兄嫁が音をあげるのも無理はないと佐々木さんは考えています。そこで母親とも相談し、ひと月のうち1週間程度、佐々木さんが実家に行って介護するのはどうかと提案したのですが、その程度では兄嫁のストレスは変わらなとのこと。そのため、佐々木さんの自宅近くに母親の別宅となるマンションを購入しようかと考えています。

 

相談の趣旨は、現在のような状況において、母親のためのマンション購入は問題ないか、というものでした。

 

◆マンション購入は相続対策として有効、しかし遺言書も必要

 

母親のお金で母親名義のマンションを購入するのは、節税対策となります。なぜなら、現金よりも不動産のほうが相続時に評価が下がるからです。定期預金に預けたままでは節税になりませんが、不動産にすることで時価の半分以下の評価に変わります。

 

マンションを購入して母親を別居させることで、兄嫁のストレスが軽減し、また、節税効果も高まりますが、次のステップとして、母親が財産の分け方を決め、それを遺言書にしておいてもらうことが重要です。

 

父親の相続は兄嫁主導で進んだとのことですから、当然、母親が亡くなったときも同様の流れになると想像できます。だからこそ、母親の意思で分け方を決めておいてもらう必要があります。不動産の購入が決まれば、あわせて遺言書も作成してもらうよう、筆者から佐々木さんに説明しました。

 

 

佐々木さんは、父親の遺言書がなく苦労をしたので、今度は母親に遺言書を作ってもらうように頼んでみるといってお帰りになりました。

 

 ポイント 

 

今回の場合、介護のストレスで母親を看ないと宣言する兄嫁への対処は必要ですが、感情的な話にならないよう、相続のための遺言書作成は必須だといえます。

 

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本記事は、株式会社夢相続が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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