個人か法人かで支払う税金の種類が異なる
勤務医のときは、所得税や住民税は源泉徴収されていたことから、自営業者が行っているような税金の申告作業は不要だったはずです。しかし開業すれば、毎年、必ず税金の申告を行うことになります。したがって、具体的にどのような税金を納めなければならないのか、その中身を正確に理解しておく必要があります。
基本的には、個人として経営するか、法人として経営するかによって、支払う税金の種類に若干の違いは生じます。しかし、動物病院だからといって納めるべき税金の内容が他の事業者と特に大きく異なるというわけではありません。
税金の種類としては、個人経営の場合は、国税については「所得税」と「消費税」、地方税については「住民税」と「事業税」「地方消費税」が挙げられます。法人の場合は、「所得税」が「法人税」に変わります。
それぞれの税金の内容は以下の通りです。
①所得税
個人の所得に対して課される国税。
②消費税
国内での販売、サービスの提供、輸入貨物に対して課される国税。
③住民税
住民が住んでいる地方自治体が行う行政サービスに要する経費を、税金を納めることのできる能力に応じて負担し合う性質の税。市区町村に納税する市町村民税(東京23区では特別区民税)と都道府県に納税する道府県民税(東京都では都民税)がある。なお、「住民」には個人だけでなく法人も含まれ、それに応じて個人住民税と法人住民税がある。
④事業税
事業を行う場合には、道路等の公共施設を利用するなど公共サービスを受けていることになる。その経費の一部を事業者に負担させることを目的とした都道府県税。個人に課税される個人事業税と法人に課税される法人事業税がある。
⑤地方消費税
国内での販売、サービスの提供、輸入貨物に対して課される都道府県税。
⑥法人税
法人の所得に対して課される国税。
なお、会計上の「収益」「費用」にあたるものは、法人税上は「益金」「損金」と、所得税上は「収入金額」「必要経費」と呼ばれています。
また、会計上は「収益」「費用」として計上していたものが、税務上は認められないこともあるので注意が必要です。会計で「費用」として計上していたものが、「損金」もしくは「必要経費」と認められないために所得が増え、その結果、納税額が増えてしまうのは実際によくあることなので、会計と税務における取り扱いの違いを十分に意識しておくことが必要です。
消費税を納めるまでの流れとは?
動物病院が申告・納税することになる上記に挙げた税金の中で、おそらく最も分かりにくいものは消費税でしょう。消費税については、基本的にお店でモノを買ったときに支払う税金という程度の知識しかなかった人が多いかもしれません。
しかし、動物病院を開業すれば、消費税を支払うだけでなく、預かってさらに国に納める立場になるわけであり、そのイメージが今一つつかめないという人もいることでしょう。そこで、具体的な例をもとにして消費税を納めるまでの流れを確認しておきましょう。
まず、薬品会社から医薬品1万1000円(うち消費税1000円)を仕入れたことにします(計算を簡単にするために、税率は10%と仮定)。次に、飼い主の連れてきたペットに対して診療を行い、診療代金と薬代金の合計5万5000円(うち消費税5000円)を受け取ったとします。するとこのケースでは、税務署に納める消費税の額は、「5000円マイナス1000円」、つまり4000円となります。
このように、預かった税金の額が、自らが支払った税金の額より多ければ、その差額を計算して納めるのが消費税の基本的な仕組みです。一方、逆の場合には、つまり預かった税金の額が、自らが支払った税金の額より少なければ、その差額は還付されることになります。
なお、実際の消費税の計算はより複雑な形となります。具体的には、①原則課税の計算式か、②簡易課税の計算式のいずれかで計算することになります。それぞれの計算方法は下記のようになります。
【原則課税の計算式】
消費税の納付額=課税売り上げに係る消費税額-課税仕入れ等に係る消費税額(実額)
【簡易課税の計算式】
消費税の納付額=課税売り上げに係る消費税額-課税売り上げに係る消費税額×みなし仕入率
「みなし仕入率」は卸売業の場合は90%、小売業の場合は80%などというように業種により異なっている。動物病院はサービス業に該当するので50%になる。