企業が事業投資として書籍を出す「企業出版」は、集客・販促、採用、周年事業といった企業のさまざまな課題解決において大きな力を発揮します。本連載では、商業出版との違いなどの基本知識から、企業出版の実践(書籍マーケティング)で成功を収めるための具体的なノウハウまで、株式会社幻冬舎メディアコンサルティングで取締役を務める佐藤大記氏が詳しく解説します。

今や資格を持っているだけでは厳しい「士業」の世界

企業出版では大きく6つの業界、「不動産」「金融・投資」「士業」「医療・介護」「教育」「B to B」を主要ターゲットにしています。今回は主要6業界のうち「士業」について、主に「税理士」を例に説明したいと思います。

 

弁護士や税理士、司法書士、行政書士といった、いわゆる「士業」の方々は、今や資格を持っているだけでは厳しくなってきており、仕事を得るためにはマーケティングや営業力が問われるようになってきています。

 

とはいえ士業の方たちは、マーケティングや営業にはそもそも不慣れという現実もあります。既存顧客から新規先を紹介してもらうというルートも大きな拡大は見込めず、健全な危機感として「何か手を打たなければならない」という意識が本当に高まっています。

 

そうした切実な背景もあり、昨今は、士業の分野においても企業出版への問い合わせが増え続けています。書籍を新規の顧客獲得ルートを確保するための「営業ツール」として、書籍を活用しようという方が明確に増えているのです。

 

書籍を作る上で大事なポイントは専門性を打ち出すことです。弁護士も税理士も士業は何かに特化し、一つのテーマの圧倒的専門家として「ブランディング」が大切になります。弁護士であれば離婚専門や、税理士ならば相続専門などです。たとえば、税理士で「税務申告が得意」といっても、それは税理士なら当たり前のことで差別化はできません。したがって、企業出版においても『税務申告読本』という本では、読者の役には立ちますが、顧客獲得には結びつきません。

 

もちろん、税理士であれば通常の税務申告なども業務として行っているはずですが、企業出版においては、何か尖ったものを読者に訴えかけることが大切です。税務申告だけというレッドオーシャンを抜け出すためには、例えば「相続」「開業支援」「経営改善」「節税」「M&A」などで自らの得意分野を打ち出していく必要があるのです。

「税務調査」を完璧に乗り越えるノウハウを書籍に

税理士の企業出版で大成功を収めた例が、『相続税の税務調査を完璧に切り抜ける方法 改訂二版』(2020年3月刊)です。本書は、ある日突然訪れる「税務調査」にどう対処したらよいか、相続税の税務調査対策のノウハウを、資産税に強いベテラン税理士が指南する内容です。2015年に相続税の基礎控除額が減額されたことで、「うちも相続税が課税されるのではないか」「課税されるとしたらいくらか」といった不安を覚える人が増える中、この書籍は大きな注目を集めました。

 

特に多くの人が心配するのが「相続税の申告後にやってくる『税務調査』」です。税務調査が入るのは、申告漏れが想定される場合においてだけなので、申告漏れのない相続税の申告書を作成することが重要になります。それでも万が一、税務調査が来た場合への対処法、税務調査を完璧に切り抜けるためのさまざまなノウハウが紹介されています。

 

本書はもともと2013年に初版が出て、好評だったため「改訂版」、さらに「改訂二版」と続いているものです。基本的な内容は同じですが、税制改正に合わせて修正を加えることで鮮度を保つことができるため、常に書店に置かれ、相続税の悩みを抱える読者の目につきやすくなっています。

 

著者の服部誠氏は、書籍の刊行をきっかけに、この分野の専門家として広く知られるようになりました。今も毎月多くの相談が寄せられていて、セミナー等の講師としても大活躍しています。

どんな士業の方にも「書籍にするに足る」専門性がある

もう1冊、医療機関専門の税理士が執筆した『コンサルが教えてくれない 医師の開業5つの落とし穴』(2019年2月刊)も大きな反響を呼びました。クリニックの開業にあたって不要な投資をせず、理想のクリニック経営を実現するためのポイントを解説しています。

 

勤務医が独立してクリニックを開業する件数は増えていますが、一方で経営がうまくいかずに閉院に追い込まれるケースも少なくありません。医師は医療の専門家ではありますが、それまで勤務医であれば経営については素人です。

 

そこで開業にあたっては、医療専門の開業コンサルタント等に頼るケースも多いのですが、中には悪質なコンサルタントもいるため、いいように騙されて不必要な投資をしたり、話を鵜呑みにして高すぎる医療機器を購入するケースがあとを絶ちません。医師は銀行の融資が受けやすいという側面もあり、借金を背負いすぎて、経営に行き詰まるケースも多いのです。著者はそんな医師を数多く目の当たりにし、これだけはやってはいけないという「落とし穴」を本書にまとめました。

 

著者の税理士事務所には毎月、開業を考えている勤務医から問い合わせが来ています。もともとは開業医の節税が専門でしたが、いまでは開業のコンサルティングにも対応しています。開業時から介入することでクリニックの健全経営を実現させ、その後の長い付き合いにつながるという好循環を生み出しているのです。

 

士業の方々の中には、「うちにはオリジナルなノウハウなどない」とおっしゃられる人もいるでしょう。確かに、一見これといった特色のない士業の方もいます。それでも徹底してヒアリングしていくと、何かしら光るものがあるものです。その道で何年も仕事をしているのですから、必ず何かあるはずです。それを引き出すのが、私たち幻冬舎メディアコンサルティングの腕の見せ所です。

 

例えば、今まで紹介だけでやってきた、というのであれば、「紹介が絶えない税理士の秘密」というテーマもあり得ます。人柄のよさや、真摯な姿勢、おもてなしの心など、それが唯一の強みであれば、そこをブランディングすることで「この税理士はすごい」という展開に持ち込むことができます。自分は特に何もないと思っていても、私たちが強みを見つけ、専門性として際立たせます。ぜひ一度ご相談ください。

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