企業が事業投資として書籍を出す「企業出版」は、集客・販促、採用、周年事業といった企業のさまざまな課題解決において大きな力を発揮します。本連載では、商業出版との違いなどの基本知識から、企業出版の実践(書籍マーケティング)で成功を収めるための具体的なノウハウまで、株式会社幻冬舎メディアコンサルティングで取締役を務める佐藤大記氏が詳しく解説します。

独自の出版モデルを支える「GTRS」と「TSO」

幻冬舎メディアコンサルティングが手がける企業出版は、グループ会社の幻冬舎が1993年の創業以来、多くのベストセラー、ミリオンセラーを世に送り出す中で培ってきた「つくる」「知らしめる」「売る」という3つの強みを礎として、新しい出版モデルとして独自につくりあげたものです。

 

 「つくる」とは、企画・編集力のことです。ミリオンセラー、ベストセラーを生み出す幻冬舎独自の出版ノウハウを法人に当てはめることによって、企業の「伝えたい」想いを読者の「知りたい」内容に変換します。前回は、この「つくる」の具体的内容について、弊社が独自に生み出したスキームとして「GTRS」と「TSO」の2つがあること、そして「GTRS」について詳しく説明をしました。今回は、もう1つのスキーム「TSO」について詳しく見ていきます。

 

「TSO」とは、「タイトル(T)、サブタイトル(S)、帯コピー(O)」の略です。この「TSO」は、書籍企画の原点となる「GTRS」をもとに考えていきます。タイトル(T)は文字どおり書籍のタイトルです。タイトルを補完するのがサブタイトル(S)で、帯コピー(O)は書籍内容のうち、特にピックアップして伝えたい内容をコピーにして帯の部分で表現します。

メールを活用して「言語化」する理由とは?

「TSO」をつくるにあたっては、社内でのやり取りをすべてメール上で行います。その内容は、当社の社長を含めて、書籍にかかわる関係者全員で情報を共有します。

 

たとえば、担当編集者がタイトルを決めたら、関係者全員にメールで回覧し、承認を得る必要があります。その際に、タイトルに関して疑問点などが寄せられます。関係者一人ひとりがプロの編集者であり、読者であるという考え方を持ち、率直な意見を述べ合います。

 

関係者とはいえ、その本のテーマにもともとは関心がない、関心はあるけれどクライアントのことをあまり知らないなど、つくろうとしている本との距離感はさまざまです。ですから、いい意味で読者の視点で、バイアスがかからずにタイトルだけを見ることができます。

 

大事なのは、タイトルをパッと見たときに、どう感じるかです。「意味がわかりにくい」「インパクトが弱い」「もっと簡潔なほうがいいのではないか」「矛盾を感じる」「論理破綻しているのではないか」などなど。それらの意見に対して、編集者はタイトルの意図や狙いなどを説明します。その説明に対してもまた指摘が出るなど、メール上で何度もやり取りが行われます。そうしてどんどんブラッシュアップしていきます。

 

一般の出版社の場合、こうしたやり取りは企画会議などで話し合い、そこで結論を出すものですが、私たちは会議よりもメールを重視します。直接会って話をしたほうが早いのではないかと思われるかもしれませんが、メールで文字にして「言語化」することに意味があるのです。

 

会議の場合、各人の発言について、それぞれが「何となく」わかった気になることがあります。そして、十分に理解されないまま物事が進んでいき、あとでトラブルが発生する。読者のみなさんも経験があるのではないでしょうか。メールによってすべてを文字にして言語化することで、あいまいさを排除できます。関係者全員が徹底的に共通の認識を持つという点で、メールは最良のツールなのです。

編集者の俗人的なスキルに頼らない本づくりの仕組み

「TSO」は、書籍企画の原点である「GTRS」にひもづいています。「TSO」は、あくまでも「GTRS」という土台の上に構築されるものです。土台を無視して建物を建てることはできません。ですから「TSO」のメールのやり取りには、必ず「GTRS」が添付されています。

 

担当編集者をはじめとする関係者一人ひとりが「書籍を通じて読者に何を伝えたいのか」について疑問を抱いたときに、いつでも土台に立ち返れる仕組みになっているのです。タイトルの響きや雰囲気はいいけれど、本当に「GTRS」と合致しているのか、ズレはないか、うわべだけのものになっていないかといったことを常に確認できるようにしています。

 

このように私たちの企業出版では、編集者一人の属人的なスキルに頼らない本づくりの仕組みを取り入れています。これは他社にはない当社独自の書籍のつくり方で、本当に大事なポイントだと考えています。決して雰囲気や感情に流されることなく、2つのスキームである「GTRS」と「TSO」に基づいて書籍をつくることを徹底しているのです。

 

「TSO」は、このようにして人も時間も多く使って言語化を繰り返し、関係者全員が共通認識を持って、読者視点できっちりとつくり込んでいきます。それにより過不足なくクライアントの目指すゴールが実現できるのです。

 

以上のように、私たちの企業出版では「GTRS」と「TSO」という2つのスキームに基づいて本をつくりますが、もうひとつ重要となるのが書籍の「構成案」です。構成の良し悪しによって、書籍を手に取った読者が最後まで読み終えるのか、途中でやめてしまうのかが決まります。書籍の構成案のつくり方については次回、ご説明したいと思います。

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