山田知広税理士の著書『オーナー社長のスゴい引退術』より一部を抜粋し、老後にリッチな社長とそうでない社長の違いを見ていきます。

ひとことで言ってしまえば「経営センス」の違いだが…

日本社会は格差社会といわれていて、「持つ人」と「持たざる人」の二極化が進んでいます。実際、私の周りの中小企業経営者の方々を見ていても、お金に余裕があって早めに引退し、充実したセカンドライフを送っている方と、70代、80代になってもあくせく働いている方がはっきり分かれている印象です。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

どうして差が生まれるかというと、ひとことで言ってしまえば経営センスの違いです。両者の決算書を見比べると、今は経営が苦しい後者も、かつては羽振りのよかった時代があったことが窺えます。ところが、どこかのタイミングで業績が伸び悩み、次第に右肩下がりになってきたのでしょう。今は過去の資産を食いつぶしながら、何とか事業を続けている状態です。

 

それに対して、充実したセカンドライフを送っている前者は、会社を息子さんに譲ってしまっても、収入の心配がありません。それは〝お金を稼ぐ仕組み〟をしっかり作ってあるからです。ここに決定的な違いがあります。

 

〝お金を稼ぐ仕組み〟は様々ありますが、たとえば別の新たな会社を起こして収入を得る、資産を金融商品に代えて定期的な収入を得る、などといったことです。現役時代にやりたくてもできなかったことを優先して行いながら、じょうずに収入を確保していきます。

元気なうちに引退すれば自分も会社もハッピー

早めに会社を子どもに渡し一線を退いている方や、老後のお金の心配のない方は、自分の時間を使うのが上手です。そのため、交友関係が広くなり、見識も広まって幸せそうにしている印象です。

 

私のクライアントで老齢のご婦人がいるのですが、彼女は老後リッチの一人で、時々友人を誘っては食事をご馳走しながらおしゃべりを楽しんだり、ときには海外旅行にも連れ立っています。実に優雅な生活です。

 

彼女は以前、会社を経営していましたが、還暦を迎えた後に息子さんに会社を譲ってしまい、それ以降は不動産投資などをやりながら、好きなことをして生活しています。会社のほうは代の息子さんに代替わりしたことで活気が蘇り、今では取引先も増えて業績は好調です。さらに近々、もう1つ事業所を立ちあげる予定です。

 

これがもし、彼女が今でも経営を続けていたら、とうの昔に業績は落ちていたに違いありません。私は顧問税理士として長年その会社の経営状態を見てきたので分かります。仮に彼女が現役にこだわる方でなかなか経営を譲らず、業績が落ち切った底のタイミングで事業承継していたら、息子さんがV字回復させるのは事業規模や資金力から考えて不可能に近かったでしょう。事業承継というのは、業績が落ちる前にバトンタッチすることが大事なのです。

 

かの徳川家康も江戸幕府を開いてわずか2年ののち、息子の秀忠に政権を譲り、秀忠も父に倣って早期に家光に引き継ぎました。江戸幕府が約300年続いた理由は、後継を常に考えていたからです。若いうちに譲ったからこそ、先代がバックアップすることで後継者が育ち、会社も成長軌道に乗ることができるのです。

子に会社を任せられない親たちへ

職業柄、承継適齢期を迎えた経営者の方々とよくお話しさせていただきますが、事業承継が進んでいない社長は比較的多くおられます。「自社株の移転が進まない、社長の椅子をなかなか子に譲れないのをどうすればよいか」との相談をお受けする中では、しばしば子への愚痴がこぼれます。

 

現在の厳しい経済環境を考えると、会社の舵取りは容易ではありません。我が子が次代を担うに相応しい人材かどうか、シビアかつ客観的に判断する必要もあります。特に、この道一筋できた社長にとって、何をするにも子の態度はいちいち不満がつのり、何かにつけて気になるものです。経営の経験年数がまったく違う上に、子どもはいつまでたっても子どもですから、肩書きが社長になっても頼りなく思え、ついつい口を出してしまうのでしょう。

 

なぜ、そんなふうに口を出してしまうのでしょうか。実は、手を出したり口を出したりするほうが、楽だからなのです。

 

会社の発展や子の成長を考えると、本人にやらせて黙って見守ることのほうが大事ということは、みんな頭では分かっています。しかし、口を出して指示をしたり、失敗する前に手助けしたりするほうが気を揉まなくてよい分、楽なので、ついつい楽なほうへ流れてしまいます。

 

しかし、それではいつまでたっても子は一人前になれません。子が大きくなってきて、三輪車から自転車に乗り換える練習のとき、親がいつまでも転ぶのが心配だからといって、自転車を支えていたのでは、子は遠くへ自由に行けないのと同じことです。

 

会社を託したのであれば、信じてあげること。それが大事です。一見冷たく薄情に思えるかもしれませんが、見守ることは実は大きな愛情の現れなのです。子を信じていないとできないことですから。

 

子の成長を阻害しないためにも、「失敗してもいいからやってみろ」という大きな愛をもって、社長には見守っていただきたいと願います。

パーソナル・グローバリゼーション

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布留川 勝

幻冬舎メディアコンサルティング

変化の激しいグローバル化時代に必要とされるスキルについて、数多の日本企業のグローバル人材育成をサポートしてきたグローバル・エデュケーションアンドトレーニング・コンサルタンツ。 代表取締役の布留川勝氏がグローバル…

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