住宅ローンの支払いに困ったとき、どこに相談すればいいのでしょうか? 融資元の金融機関、弁護士・司法書士、専門会社…と、いくつか選択肢はありますが、それぞれに得手・不得手や思惑があるので注意が必要です。相手は専門家とはいえ、言いなりにはならず、自身の状況や進みたい方向と照らし合わせながら、選択するように心がけましょう。

相談先にも「思惑」や「得手不得手」がある点に注意

住宅ローンの支払いに行き詰まったら誰に相談すればいいのか、迷うところです。一般的に思いつくのは融資元の金融機関や弁護士や司法書士など法律の専門家、また最近ではインターネット検索の普及により、私の会社のような任意売却専門会社を訪れる人も増えてきました。

 

それぞれ思惑や得意・不得意、信頼性などに違いがあるので、よく理解した上で相談することが大切です。

融資元の金融機関への相談は、なぜ重要なのか?

【融資元の金融機関】

融資元の金融機関に相談すると、返済計画の見直しを提案してくれることがあります。ボーナスが減額されて苦しい場合にはボーナス返済をなくしたり、短期的に収入が減っている場合には1年間だけ利息分のみの支払いでいいと返済額を減額してくれたりすることがあります。

 

ただし、金融機関の提案は総じて、債務者にとって問題の根本的な解決には足りないケースが大半です。ボーナス返済をなくせば、他の月の返済分が増えることになります。1年間利息分のみの支払いをすると、やはりその後の支払額が増えます。債務者の収入が一時的に落ち込んでいるだけならば意味のある提案ですが、落ち込みがいつ終わるのかわからない状況なら、問題を先送りにしているだけです。

 

金融機関側も一時しのぎに過ぎないことはもちろん理解しています。しかしながら元本と利息を全額回収するのが彼らの原理原則なので、先送りになる提案しかできないのです。

 

とはいえ、住宅ローンの返済に行き詰まったとき、金融機関に相談することには非常に大きな意味があります。「債務者として延滞を非常に重大なことと認識しています」という意思表明になり、金融機関の側は誠意を示してくれたと受け取るからです。

 

任意売却や債務整理を進めることになれば、後々金融機関と交渉する機会が多々あります。先に誠意を示しておくことで、交渉が円滑にまとまりやすくなるので、住宅ローンの返済を延滞したら、自分から連絡を入れて、なるべく早めに金融機関を訪れるのがおすすめです。

「弁護士・司法書士」は自己破産を推奨することが多い

【弁護士・司法書士】

金融機関から法律用語が多数並んだ督促状や催告書が届いたら、ほとんどの人が真っ先に思いつく相談先は弁護士や司法書士など法律の専門家でしょう。

 

住宅ローンの返済に行き詰まった人がやってくると、彼らはほぼ自動的に自己破産するようアドバイスします。任意売却により債務を最小限にし、自己破産しなくていいケースでも、解決策として一律に自己破産をすすめるのです。

 

彼らはあくまで法的手続きを専業としており、不動産の売買に関する知識のエキスパートではありません。ましてや任意売却という特殊な取引について詳細に理解しており、実務も任せられる弁護士や司法書士はほとんどいません。

 

まれに任意売却を提案する法律家もいますが、その販売活動は知り合いの不動産業者に声をかけてみるという程度のものです。任意売却にはこれまで説明してきたとおり、「住み続けるための購入者選び」や「購入者との交渉による生活準備金の支給」など独特の活動・交渉が含まれます。

 

手がける専門家の知識と経験、技量により、債務者の生活再建をどれだけ強く支えられるかという点において、大きな違いが現れるものなのです。

 

また債務者ごとに「どのように生活を再建していきたいか」というニーズは異なります。不動産売却のネットワークを持たない法律家が、多様なニーズに応えることは難しく、任意売却の成功率も著しく低いものになります。

 

法律家にはもう一つ、「依頼人が自己破産してくれないとお金にならない」という経済的な損得に基づく判断もあります。自己破産であれば、数十万円単位の手数料を取ることができるので、どんな案件でも「自己破産ありき」のアドバイスをしたがるのです。「自己破産せずに住宅ローン問題を解決したい」という相談には一切耳を貸してくれないと考えておくべきです。

 

ただし弁護士や司法書士はあくまで、士業として国から資格を得て仕事をしている専門家であり、社会的に高い信頼を勝ち得ている人たちです。能力や信頼性の差は比較的小さく、一定以上の信用はできる、という意味では貴重な相談先ではあります。

すべて任意売却ありきな「任意売却専門会社」

【任意売却専門会社】

住宅ローン破綻に対して任意売却という解決策を提示できるのが任意売却専門会社です。債務を抱えている人の不動産売却を専門としているため、金融機関との交渉や債務者のニーズに合う提案を得意とします。

 

特に債務者のニーズは「住み続けたい」「引っ越し費用がほしい」「引っ越しまでの猶予期間がほしい」「生活準備金がいる」など多様なので、それに応えられる引き出しの多さは任意売却専門会社ならではといえます。販売ネットワークを確立しているため、任意売却の成功率が高いのも大きな特徴です。

 

ただし弁護士や司法書士とは反対に、任意売却専門会社の提案はすべて任意売却ありきです。法的手続きを手がけることができないため、債務整理により住まいを手放さなくてもいいケースでも、任意売却をすすめることがあります。

 

また一昔前まで「整理屋」と呼ばれた業種であり、弁護士や司法書士に比べると社会的な信用性が低いことは否めません。現在、インターネット上で大々的に広告宣伝を行っている任意売却専門会社の中にも実態には疑問符がつくケースが見受けられます。

手数料欲しさに「管財事件」にしたがる弁護士も

かつて弁護士は資格を持っているだけで高収入が保証される職業でした。ところが司法改革により大量の弁護士が誕生したことから、近年では収入がどんどん減少しており、なりふり構わず収益をあげようとする人も増えています。

 

なりふり構わず収益をあげようとする人も… (画像はイメージです/PIXTA)
なりふり構わず収益をあげようとする人も…
(画像はイメージです/PIXTA)

 

住宅ローンの返済に行き詰まった人から相談を受けた弁護士はほとんどの場合、自己破産をすすめます。債務者のニーズをくみとって、自己破産しないで解決できるという選択肢もあることを教えてくれる弁護士は、残念ながら稀少です。

 

自己破産をすすめる中でも、弁護士が特にやりたがるのが「管財事件」です。自己破産には「管財事件」と「同時廃止事件」がありますが、弁護士にとっては前者のほうがはるかに高い手数料を受け取ることができるためです。

 

「管財事件」にするためには、自己破産する時点で、自宅という大きな財産を持っていなければなりません。自己破産前に任意売却をしたほうが、ほとんどの債務者にとってお得なのですが、そうすると「同時廃止事件」となり、弁護士にとってはうま味がなくなってしまいます。

 

「任意売却は面倒が大きく、利益にならないのでやりたくない」というのが多くの弁護士の本音です。任意売却にすると、弁護士は裁判所から「適正な価格での売却だったか」を問われます。売却価格の妥当性を証明するためには、不動産の査定書や固定資産税評価額を示す書類などを作成して提出する必要があり、手間がかかります。

要望に合う解決策を掲示してくれるか、見極めが重要に

加えて、「任意売却にトライして失敗したら、裁判所からの評価が下がる」というプレッシャーも弁護士にはあります。

 

裁判所は仕事の成績により弁護士を独自に格付けしており、格付けの高い弁護士には企業の「管財事件」など、大きな報酬が見込める案件を回します。個人の任意売却で失敗し、格付けが下がることは収入に大きな悪影響となるので、「リスクを冒してでも債務者のために」と頑張る弁護士はいないのです。

 

「どうせ自己破産するなら同じ」という考えで、競売にしてしまうのがほとんどの弁護士のやり方です。「管財事件→競売」という流れしか知らない弁護士も多く、適切な任意売却にすれば、債務者がどれだけ助かるかという発想はそもそも彼らの頭にありません。特に、古くから開業している年配の弁護士に多く見受けられます。

 

固定客をまだあまり持っていない若い弁護士の中には、「よい口コミを広めて、顧客を集めたい」という考えから、面倒な手続きを厭わず頑張る人もいます。

 

弁護士に相談する際には「熱意を感じられるか」「自己破産ありきだけでなく、要望に合う解決策を提示してくれるか」ということに着目して信頼性を計ることが大切です。

 

 

矢田 倫基

烏丸リアルマネジメント株式会社 代表取締役

 

本連載は、2017年2月13日刊行の書籍『住宅ローンが払えなくなったら読む本』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

住宅ローンが払えなくなったら読む本

住宅ローンが払えなくなったら読む本

著者 矢田 倫基   監修 矢田 明日香

幻冬舎メディアコンサルティング

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