企業が事業投資として書籍を出す「企業出版」は、集客・販促、採用、周年事業といった企業のさまざまな課題解決において大きな力を発揮します。本連載では、商業出版との違いなどの基本知識から、企業出版の実践(書籍マーケティング)で成功を収めるための具体的なノウハウまで、株式会社幻冬舎メディアコンサルティングで取締役を務める佐藤大記氏が詳しく解説します。

他社との差別化が難しい「金融・投資」の業界

企業出版では大きく6つの業界、「不動産」「金融・投資」「士業」「医療・介護」「教育」「B to B」を主要ターゲットにしています。今回は、主要6業界のうち「金融・投資」について、「IFA」(独立系ファイナンシャルアドバイザー)の成功例を中心に解説します。

 

「金融・投資」の業界は、「不動産投資」の業界(第7回)と状況が似ています。不動産投資会社と同様に、金融・投資関連企業では独自スキームを維持することが難しく、他社との差別化に苦労しています。特にIFAのような独立系の事業者は、大手証券会社や銀行という“看板”がないため、自分たちが何者であるか、どんな思想を持って顧客の資産を預かっているのかをきちんと伝えられないと、投資家に選んでもらうことはできません。

 

逆に投資家側からすると、たくさんの金融・投資会社の中から信頼できる企業を見つけるのは至難の業です。どこも似たり寄ったりで決め手に欠けるからです。なかでも富裕層は、これまで付き合いのある会社や人しか信用しない傾向が強く、ウェブ情報についても鵜呑みにする人はそうはいません。

 

では、富裕層が新たに投資先やパートナーを選ぶ際にはどうしているのか。近年、一般的になっているのは、書籍を読んで知識武装した上で、セミナーに参加するというスタイルです。

 

もともと金融・投資と書籍は非常に相性がよく、今回事例として挙げる2020年6月の企業出版『株オタクの現役IFAが指南! 本当に儲かる「株」講座』も、大きな反響を呼びました。すでに2刷となっています。

読者が「この著者なら信頼できる」と考えた理由とは?

著者の原田茂行氏は、大和証券営業課長、日興証券、野村證券でのファイナンシャルアドバイザーを経て、2010年に独立したIFAです。これまで30年以上、株式相場の第一線で活躍してきました。自ら“株オタク"と称するほど、株が大好きで常に株のことを考えています。株式投資のアドバイザーとしての実績も豊富で、資産1600万円のサラリーマンを12億円の超富裕層に育てたという経験もあります。

 

その手法やノウハウを徹底的に公開したのが本書ですが、特筆すべきは、証券会社の暗部を暴露するほか、売りたくない商品を売るためにうつ病になった自身の過去まで赤裸々に明かしていることです。

 

原田氏は自身のブランディングのためのツールとして企業出版を選んだそうです。正々堂々、明々白々と、自分の過去も包み隠さずに、何者なのかを伝えたいということでした。そうした姿勢が信頼を勝ち得たのでしょう。出版後に10名以上の「富裕層」顧客を獲得したのです。会社売却で得た数億円を運用したい、遺産相続でまとまったお金が入ったので増やしたい、といった相談が数多く寄せられました。

 

急に数千万~数億円ほどのお金を手に入れた人たちは、これまで資産運用にほとんど関心がなかったため、誰に相談してよいのかわかりません。とはいえ大手証券会社に行けば、うまく丸め込まれ、よくわからない金融商品に投資させられてしまうかもしれません。そこでまずは書籍を読んで情報収集をする人も多いのですが、そのプロセスで本書を手に取った人々の多くが「この著者なら信頼できる」と判断したのです。

 

前述のとおり、投資・金融業界での顧客開拓は「書籍→セミナー」が一般的です。しかし、原田氏の場合は書籍の反響が大きく問い合わせが殺到したため、セミナーを開催する必要すらありませんでした。書籍だけで営業が完結してしまったのです。しかも良質な顧客からの問い合わせが相次ぎ、結果的に富裕層専門のIFAになっているという状況です。

積極的な新聞広告戦略も効果絶大だった

本書ではもう一点、表紙が大きな役割を果たしました。表紙の帯に「大和、日興、野村を渡り歩いてきた」ことが明記されており、このコピーだけで、原田氏が大手証券会社での豊富な経験を持つ株の専門家であることが伝えられたのです。原田氏自身、「自己紹介をする必要がなくなった」とその効果に驚いていました。

 

さらにもう一つ、積極的な広告戦略も奏功しました。日経、朝日、読売の全国紙3紙に新聞広告を出したほか、電車内にも広告を掲載。通常、新聞や雑誌などの広告で、自分自身が何者なのかを伝えることは困難です。原田氏の場合、書籍の広告を打つことで、結果的に自分が何者なのかを全国に知らしめることができたのです。

 

広告展開によって書店での売れ行きにも勢いがつき、それがまたブランディングにつながる。この相乗効果を原田氏は大いに享受したのですが、これは業界にかかわらず、企業出版で大成功する共通パターンでもあります。

 

企業出版は本をつくって終わりではなく、そこからがスタートです。優れた書籍を制作し、全国の書店に流通させ、さらに広く世の中に「知らしめる」ことが重要になります。この知らしめるための方法の一つが広告です(広告に関しては当社のプロモーション部が全面的にサポートしています。プロモーション部の仕事については改めて説明します)。

 

ご承知のように、コロナ禍でも金融・投資分野は活況を呈しています。多くの人が資産運用に興味を持ち、実際に投資を始める人が増えています。『はじめての日経225オプション投資』(2019年12月刊)が大ヒットするなど、金融・投資関連企業から企業出版の問い合わせが増え、受注も伸びています。この状況は当面続く見通しですが、いずれにせよ今は、金融・投資関連企業にとって書籍を出す絶好の機会だと考えています。

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