企業が事業投資として書籍を出す「企業出版」は、集客・販促、採用、周年事業といった企業のさまざまな課題解決において大きな力を発揮します。本連載では、商業出版との違いなどの基本知識から、企業出版の実践(書籍マーケティング)で成功を収めるための具体的なノウハウまで、株式会社幻冬舎メディアコンサルティングで取締役を務める佐藤大記氏が詳しく解説します。

企業出版が不動産業界の営業現場を激変させた

企業出版では大きく6つの業界、「不動産」「金融・投資」「士業」「医療・介護」「教育」「B to B」を主要ターゲットにしており、最近の特徴として「B to B」の領域で、AI(人工知能)やウェブマーケティングなどIT関連の書籍が増えていることは説明しました(連載第4回)。

 

今回は主要6業界の中の「不動産」について説明します。不動産投資のビジネスモデルはシンプルで、顧客の投資目的は節税または生命保険の代わりという2種類が基本です。投資対象はアパートかマンション(ワンルーム)で、それぞれ新築と中古があります。これらの組み合わせだけですから、不動産投資会社の独自のスキームというのはそれほどありません。事実、不動産投資会社のHPやパンフレットに書かれている内容はほぼ同じです。したがって不動産投資各社は他社との差別化に苦慮しています。

 

一方で、投資家側からすると、多くの似たような不動産投資会社の中から、信頼できる企業を見つけるのは至難の業です。投資でお金を増やしたいけれども、会社選びを間違って失敗したら怖いという不安がつきまといます。

 

従来、不動産投資はテレアポ営業が主戦場でしたが、近年はリスティング広告、自社Webサイト、ソーシャルメディア、セミナーの開催などがメーンになっています。いずれも営業マンがクロージングまでもっていく、いわゆるプッシュ型営業が主流でした。

 

ところがこの数年、プッシュ型営業からプル型営業に急速に変化してきています。テレアポは電話に出てもらえなければ営業できません。ネット情報も他社との差別化が図りにくいため、プル型に変わらざるを得ないのです。とはいえ、見込み客との接点をつくるのは容易ではなく、多くの企業が苦労しています。

読者ターゲットを明確にし、対象を絞り込む

そうした中で、企業出版をプル型営業に積極的に活用し、大成功している企業があります。武蔵コーポレーションです。同社は関東一円を中心とした首都圏エリアに特化した収益不動産の資産運用を専門に行う企業で、このジャンルではまさにトップランナーといえる存在です。代表取締役の大谷義武氏は、改訂版・共著を含め弊社から9冊の書籍を出版しています。いずれも出版で大きな効果が見込める「集客・販促」「採用」領域の書籍ですが、9冊を戦略的に出版したことで、実際に絶大な成果を上げています。

 

たとえば、1冊目の『年収1000万円から始める「アパート事業」による資産形成入門』(2009年7月刊)は、発売後に書籍を経由して30件以上を受注しました。ポイントは、類書に多い「年収500万円」というカテゴリーをバッサリと切り捨て、同社がターゲットとする属性を明確に定めたことにあります。

 

年収1000万円以上の人で、資産運用をしたいけれど、ネット情報では信頼できる企業が見つけられないという場合、意識の高い人ほど書店に足を運びます。知識武装するためです。たとえば興味をもって問い合わせをした不動産投資会社で、営業マンの口車にうまく乗せられて騙されないようするのが目的です。高額投資だけに、彼らには強い防衛心理が働いています。

 

書店の資産運用のコーナーには、たくさんの本が並んでいます。最近は「年収500万円」を切り口にした不動産投資の本が数多く出ています。そこに「年収1000万以上」というキーワードが目に飛び込んでくるわけです。年収1000万以上の人は、「これこそ自分の本だ!」と手に取る動機づけになります。

 

実際に読んでみると、「この会社は信頼できる」「この会社しかない」と納得できる内容です。そして、武蔵コーポレーションが主催するセミナーに、自らの意思で参加します。そこで書籍の内容と同じ説明を聞き、信頼の気持ちが確信になります。そのうえで個別相談を受ける。書籍を読み、セミナーの説明も聞いて同社の不動産投資の仕組みを理解しているので、あとは疑問点だけを確認すればよく、コミュニケーションがスムーズにいきます。

 

営業マンも力業でクロージングする必要がありません。「いかがですか、ご関心があれば詳しいご説明をします」と言うだけで十分です。相手はすでに投資の決意が固まっており、あとは背中を押してほしいというムードになっているからです。非常に効率がよく、生産性の高い営業の仕組みといえます。

 

武蔵コーポレーションはこの成功を機に、たて続けに書籍を出版しています。ここで大事なポイントは、すべての書籍のセグメントが分かれていることです。たとえば、2冊目の『空室率40%時代を生き抜く!「利益最大化」を実現するアパート経営の方程式』(2010年5月刊)は、不動産管理の本です。プロパティマネジメントをしっかり行い、利益を最大化させるためのアパート管理運営ノウハウを実際の管理物件実例も交えて公開しています。

企業出版でプッシュ型営業からプル型営業へ転換

6冊目の『会社の経営安定 個人資産を防衛 オーナー社長のための収益物件活用術』(2014年8月刊)は、オーナー社長というのがポイントです。サラリーマン社長は除外しています。読者ターゲットを明確にし、対象を絞り込んでいるのです。

 

同社はこのように企業出版を積極活用し、不動産投資業界で主流だったプッシュ型の集客を完全にやめ、プル型の集客に徹しています。見込み客に本を読んでもらい、セミナーに自ら足を運んでもらう。そしてクロージングするという独自のスタイルを確立しています。

 

ここ数年、不動産投資分野ではプッシュ型営業からプル型営業に急速に変化してきています。そこにはこの武蔵コーポレーションの成功が少なからず影響していると思われます。

 

実際、不動産投資分野での企業出版は増えています。不動産投資会社が書籍を出す理由は、業界内での他社との差別化、ポジショニングの確立、見込み客から選ばれる企業へのステージアップなどで、最終的には営業の効率化、生産性向上につながることを期待しています。

 

最近、プッシュ型営業で有名な大手不動産投資会社も、プル型営業への転換を図りました。当社は企業出版でお手伝いさせていただきました。

 

いまやプッシュ型営業だけの会社は少数派で、このままでは生き残りは厳しくなっています。プル型営業への移行は時間の問題です。一日でも早く行動に移すことが求められています。その際の一つのツールとして、企業出版の活用を考えてみてはいかがでしょうか。

 

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