本レポートは冒頭に、対外債務懸念によるスリランカの格下げと、新興国の対外債務返済余力の改善期待という、相反する事例を紹介しています。しかし、主題は新興国の返済余力の改善期待の方です。その期待の背景について、IIF(国際金融協会)のレポートなどを参考に述べていきます。※本連載は、ピクテ投信投資顧問株式会社が提供するマーケット情報・ヘッドラインを転載したものです。

税務調査を録音することはできるか?
相続税の「税務調査」の実態と対処方法

>>>12/10(火)LIVE配信

新興国格付け:新興国の一部で格下げが続くが、返済余力に改善の期待も

格付け会社フィッチ・レーティングス(フィッチ)は2020年11月27日、スリランカの長期債格付け(自国通貨建て、外貨建て共に)をB-からCCCに格下げしました。フィッチは格下げの主な背景として今後の債務返済金額に比べ外貨準備高が不十分なことなど、対外債務返済能力が中期的に著しく悪化していることを指摘しています(図表1参照)。

 

月次、期間:2016年9月~2020年9月 出所:ブルームバーグのデータを使用してピクテ投信投資顧問作成
[図表1]スリランカの公的外貨準備高の推移 月次、期間:2016年9月~2020年9月
出所:ブルームバーグのデータを使用してピクテ投信投資顧問作成

 

一方、IIF(国際金融協会)が12月月初に発表した21年の新興国対外資金調達ニーズに関連するレポートを参照すると、新興国全体では来年、対外債務に対して返済余力が高まる可能性があると見込んでいます。

どこに注目すべきか:格下げ、新型コロナ、輸出、貿易収支、IMF

対外債務懸念によるスリランカの格下げと、新興国の対外債務返済余力の改善期待という、相反する事例を紹介しましたが、主題は新興国の返済余力の改善期待の方です。その期待の背景について、IIF(国際金融協会)のレポートなどを参考に述べてゆきます。

 

新興国は自国の資本市場の整備が遅れていることなどから、借入や社債発行などで資金を調達、結果として対外(主にドル建)債務を負う格好となっています。

 

一般に新興国の対外債務の返済能力が改善する目安として、新興国通貨高、金利低下、外貨準備高の増加、貿易もしくは経常収支の改善などがあります。ここでは新興国の貿易収支に焦点を当てます。

 

景気後退が発生した場合、新興国では輸出の減少以上に輸入が大幅に減少することにより貿易収支が改善する傾向が見られます。

 

しかし、時計の針を半年ほど戻して、新型コロナウイルスの深刻な影響に直面(初めて)した際、多くの市場関係者は、今までの景気後退のパターンと異なり、新興国の輸出が戻ることはないと、筆者も含め、見込んでいました。

 

しかしながら、あくまで一部のサンプルですが、主な新興国の貿易収支を見ると、想定以上の輸出の回復が見られます(図表2参照)。なお、貿易収支はドル建で見ているので南アフリカなどは現地通貨(ランド)建で見ると改善度合いは少なくなります。もっとも裏を返せばランド高(対ドル)傾向が春先から続いているともいえます。

 

月次、期間:2016年11月~2020年11月、メキシコ、インドネシアは10月迄 出所:ブルームバーグのデータを使用してピクテ投信投資顧問作成
[図表2]主な新興国の貿易収支(プラスは黒字)の推移 月次、期間:2016年11月~2020年11月、メキシコ、インドネシアは10月迄
出所:ブルームバーグのデータを使用してピクテ投信投資顧問作成

 

なお、先のIIFのレポートでは貿易に関するリアルタイムデータで足元でも新興国の貿易収支の改善が続いていることや、新興国での返済の備えが積み立てられていることから、新興国の21年の返済余力は貿易収支の点で、思ったほど悪くはない面も見られると指摘しています。

 

しかしながら、新興国はひとまとめにするにはあまりに幅が広く、輸出の改善だけで財政状況が改善すると判断するのは難しい面もあります。たとえば南アは既存の債務負担が多大で、構造問題も根深いことから先月には格下げされています。

 

また、輸出に強みがない、もしくは観光産業に依存する多くの新興国はそもそも輸出改善に頼れず、当面の債務返済は国際通貨基金(IMF)などの国際機関からの支援が必要です。

 

新興国の輸出が想定以上に回復したことは朗報としても、意思決定に当たっては総合的な判断が依然必要です。

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『新興国の資金繰り改善期待とその背景』を参照)。

 

(2020年12月9日)

 

梅澤 利文

ピクテ投信投資顧問株式会社

運用・商品本部投資戦略部 ストラテジスト

 

カメハメハ倶楽部セミナー・イベント

 

【12/10開催】
相続税の「税務調査」の実態と対処方法
―税務調査を録音することはできるか?

 

【12/10開催】
不動産「売買」と何が決定的に違うのか?
相続・事業承継対策の新常識「不動産M&A」とは

 

【12/11開催】
家賃収入はどうなる?節目を迎える不動産投資
“金利上昇局面”におけるアパートローンに
ついて元メガバンカー×不動産鑑定士が徹底検討

 

【12/12開催】
<富裕層のファミリーガバナンス>
相続対策としての財産管理と遺言書作成

 

【12/17開催】
中国経済×米中対立×台湾有事は何処へ
―「投資先としての中国」を改めて考える

 

 

【ご注意】
●当レポートはピクテ投信投資顧問株式会社が作成したものであり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。当レポートに基づいて取られた投資行動の結果については、ピクテ投信投資顧問株式会社、幻冬舎グループは責任を負いません。
●当レポートに記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当レポートは信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当レポート中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資家保護基金の対象とはなりません。
●当レポートに掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録