己を知り、敵を知ることが問題解決の第一歩
空室や厳しい値下げ交渉に悩んでいるビルオーナーであれば、問題解決のため、まずは自分のビルの問題点を把握する必要があります。そのためには、競合となるビルをピックアップ、厳しい目で見て歩き、徹底的に比較検討することが重要です。検討結果を一覧にしてみれば、問題点はもちろん、自ビルの強みや適正な賃料、値下げ交渉への対処法も見えてくるはずです。
己を知り、敵を知ることはどんな場合にも問題解決への第一歩となります。ここではまず、己、つまり自分のビルについて知り、問題点を把握することから問題解決への糸口を探りましょう。そのためには次の3段階の方法があります。
①さまざまなビルを数多く見て、それに対して自分なりの見解(ポリシー)を持つ
②当社(サブリース)独自の「物件評価書」で自分のビルを評価してみる
③競合となる物件を見て自ビルの市場での位置を知る
この3段階のうち最も重要なのが、①の数多くのビルを見て自分なりの見解(ポリシー)を持つことです。私の持論は、「(ビルは)見ればわかる」ですが、世の中には私のいうこの言葉に疑問を抱かれる方が多いようです。ときには「見てもわからない、わかるはずがない」と反論する方すらいるほどです。
しかし、素人でも毎日20棟、週5日で100棟のビルを見れば違いはわかってくるものです。もちろん「ここにこんなビルがある」程度のぼーっとした見方では何も見えてきませんが、「自分が借り手だとしたら、どのビルを選ぶか」、それを考えてみるだけでも違いは見えてくるものです。
さらに「テナントは高いお金を払って、どうして移転しようとしているのか」というポイントを自分で3~5個くらい挙げ、それを意識しさえすれば、まったくの素人でも、多くのことを学べるはずなのです。
それなのに、特に2代目オーナーなどは責任感、危機感がないせいか、また「ビルなんてものにはそれほど違いはないだろう」という固定観念からか、そもそもビル自体を見て回ろうとすらしません。オフィスの仲介を手がける不動産会社や銀行の融資担当者、ファンドのマネジャーといった人たちでさえ、きちんとビルを見て歩き、勉強しているという人はほとんどいないほどです。
最終的にビル経営に責任を持たない人であれば、それでもよいでしょう。しかし、責任者であるオーナーであれば話は違います。多くのビルを見て歩き、自分なりの見解(ポリシー)を持つ。それが経営を成功へと導くのです。
シンプルに考え、客観性を持つことが大事
といっても、私のいう見解(ポリシー)とは自分の好みのことではありません。このあたりを誤解する方も多いのですが、ビル経営は自分の好き嫌いで行うものではありません。いろいろなビルを見ても、単に「自分はこれが好き」や「こんなビルを造りたい」と固執するようになり、他人の意見を聞かなくなるのでは逆効果。必ず失敗します。
デザインにこだわり、自分の好きなもの以外は受け入れないという姿勢になるのは危険なことです。ビルを見て歩くと、特に中小オフィスビルでは意外にシンプルなビルが少ないことに気づきますが、これは、それぞれのビルのオーナーの好みが反映されてしまっているからなのです。
たとえば、エントランス内に設置された絵画や植栽。あるいはゴージャスだけれど、どこか古臭さを感じるシャンデリア。さらには高級感を出そうと黒やグレーを基調とした結果、重厚といえば聞こえはいいけれど、どうにも重苦しい雰囲気になってしまっているインテリア・・・。これらはオーナーや設計した人の趣味がビルをいびつにしてしまった結果です。
本来は、テナントが求めているものがデザインとなり、形となっているのがビルの正しい姿です。自分が好きでないデザインでもそれがテナントに喜ばれるのであれば、オーナーはそうしたビルを造るべきなのです。そのため、デザインを見る際には好き嫌いを考えるよりも、古くなっても古く見えないデザインとはどのようなものかを考えることが大事です。
どんなビルも経年変化から逃れることはできませんが、それでもなかには歳月が経っても古さを感じない、あるいは古びにくいデザインがあるもの。それを長年、世の中で愛されてきた商品や建築などから学ぶ、そういう姿勢でデザインを見ることも大事な視点です。
また、自分なりに見解を持ったら、それだけに終わらせず、周囲の意見を聞いて参考にすることも大事です。特に自分よりもオフィスビルに詳しそうだと思う人にはぜひ、聞いてみてください。その作業によって自分の見解はより客観的になり、多くの人に受け入れられるものになってくるはずです。
詳細な項目で自分のビルを評価してみる
では、実際にどのように自分のビルを評価すればいいのか? 何から始めていいかわからないオーナーには、物件評価書の利用がお勧めです。
図表1は当社が独自に作っているもので、立地、外観、エントランス、共用部分、セキュリティといった、企業がビルを選ぶ際に重視する5項目と、それらを総合した評価からなっています。それぞれの項目は優れる(15点)、やや優れる(12点)、普通(8点)、やや劣る(4点)、劣る(1点)の5段階で評価し、総合点を導き出します。
この物件評価書の目的は、自分のビルを客観的に見るということにあります。一般にオーナーは自分のビルを他人の立場に立って評価する作業を行うことはほとんどありません。しかし、この作業をすることでオーナーは初めてテナントの立場に立って、自ビルを見ることができるようになり、ひいてはこれまで気がつかなかったビルの問題点や強みなどに気づくことになるのです。
次回は、各項目で評価すべき点について具体的に説明しましょう。