天才画家は「アナキスト」か、「犯罪者」か
⬛︎イギリスのパンク文化の系譜にあるバンクシー作品
――ほかのグラフィティ・アーティストと比べると、どうでしょうか?
(毛利)ストリートやグラフィティ・アートの作家は、基本的に壁や道路に描いた落書きが作品であるため、ギャラリーで展覧会をするというのは必ずしも一般的ではありませんでした。キース・ヘリングやジャン=ミシェル・バスキアなど限られた作家だけでしたね。
『BANKSY CAPUTURED』には、2001年にバンクシーがロンドンのリヴィングトン・ストリートで行った展覧会の写真が掲載されています。バンクシーにとっても、最初の展覧会のひとつです。開催された場所は、美術館でもギャラリーでもないストリートのトンネルの壁でした。
私は、こういう展覧会の写真をネットで見たことはあったのですが、この写真集では、その展覧会を準備するようすが克明に記録されていて、あらためて当時のグラフィティについて発見がありました。
掲載された写真を見ると、バンクシーの作品がどういう風に描かれるのか、そして、バンクシーが使ったステンシルという表現技法がどんなものなのかが、よくわかります。
ステンシルとは用意しておいた型紙を街角の壁に貼って、その型紙の上からスプレーで絵の具を吹き掛けて絵を描く技法のことです。
もっともグラフィティ作家の主流はステンシルではなく、型紙を使わずスプレー缶やフェルトペンで描く技法。バンクシーによって知られるようになったステンシルは、精緻であるのに、短時間で描き上げることができます。
いずれの技法にせよ、グラフィティ・ライターたちがしていることは、許可のない「公共物への落書き」です。その行為は「器物損壊(ヴァンダリズム)」であり、現在の法体系のなか、多くの国では「犯罪」であり、また「犯罪(クリミナル)」ではないにしても少なくとも「イリーガル(非合法)」な行為です。アーティストは取り締まりの対象となり、場合によっては逮捕され、犯罪者として扱われるのです。
黒を基調にしたバンクシーのステンシル作品は、アメリカのカラフルなグラフィティだけではなく、イギリスのパンク文化の系譜にあります。そしてそこには、パンクのアナキスト的な対抗文化の影響を見ることもできます。
【次回に続く】
解説:毛利 嘉孝(東京藝術大学大学院教授)
聞き手:原田 富美子(KKベストセラーズ)
編集:GGO編集部