音問題を軽減できる可能性を持つのは「人間関係」のみ
音問題に関しては、マンションは完全に自分だけ、家族だけのプライベートな空間だという雰囲気を伝えるような広告が存在し、音問題をLL値の説明で済ませてしまうような傾向と相まって、マンションそのものに極端なプライバシーを期待する人を増やしてしまっていることも問題だと考えています。
上下左右に人が住むマンションでは、床の遮音性能を高めても、防音室でも作らない限り、音はどこからか聞こえてくるものです。それを唯一軽減できる可能性を秘めているのは、まさかと思うかもしれませんが人間関係だけなのです。
音問題は聞こえ方が人の聴力や感情の居所によって異なるため、解決が難しいのですが、それでも軽減策はあります。
人間関係を作ることで「音の聞こえ方」を変える
音問題の実態を探るため、2007年に行った集合住宅内での音問題に関する意識調査を見てみましょう。
その調査によると、住まいの中の気になる音に対して苛立ちを感じている人は約51.9%、半数以上にも及んでいます。
具体的にどんな音に苛立ちを感じているかを聞いたところ、最も割合が高かったのは子どもが走り回る音で35.4%。続いて挙げられていたのは子どもの騒ぎ声、何かわからない音、大人の騒ぎ声、日曜大工の音、大人が歩く音などなど。いずれもマンションの広告で表示されている床の遮音性能からは推察できない音ばかりです。
では、その気になる音にどう対応しているか。これに対しての回答は何もしていないという人が多数で、63.1%。たいていの人がイラッとしながらも、そのまま我慢している状況と言えます。
しかし、何もしないと回答しつつも、全体の7割の人は音問題の解決法は入居者間のコミュニケーションにあるとも考えています。そして、そのうちの3割強の人は、隣人やその他の人の顔を知っている、すれ違う時に簡単に挨拶する程度でも音トラブルは減ると考えています。
つまり、この調査結果からわかるのは、音問題はちょっとした日常の挨拶が交わせる人間関係を作ることで約3割の人が音の感じ方が変わるという経験をした、あるいは解消される可能性が高いと思っているということです。
そこにセキュリティ同様に、マンション内のご近所付き合い、人間関係の意味が隠されています。
鍵1本で守られるプライバシーを優先して、ご近所と付き合わず、自室に閉じこもっている時には騒音にしか思えない音が、お隣さんと挨拶を交わしたことで違う聞こえ方になったり、受験を控えた子がいるとわかることで、お互いに気遣い合ったりすることもできる、それが人間関係の力です。
プライバシーはもちろん大事ですが、マンションは多くの人間がひとつの建物内に暮らすものです。現在の技術でマンション内のすべての音を完全に防ぐのが無理だとしたら、人間関係を作ることでその音の聞こえ方を変える方が賢明な判断だと思います。