結婚前に離婚後のことも決めておく「夫婦財産契約」
まずは前回までの振り返りとして、「夫婦財産契約」とは何なのか、確認しておきましょう。
Q.そもそも「夫婦財産契約」とは何ですか?
「夫婦財産契約」は、結婚しようとする夫婦が結婚する前にする契約であり、家事の分担や財産の管理方法、離婚後の財産分与についてなどを定めるものです。
婚姻中に行われる夫婦間の契約は、婚姻中原則として取消可能状態にあります(夫婦間の契約取消権)。夫婦財産契約を婚姻前に適式に取り交わすことによって、夫婦間の財産について取消可能状態になることなく取り決めできます。「婚前契約」や「プレナップ」と呼ばれることもあります。
Q.夫婦財産契約は登記する必要があると聞いたことがあるのですが?
必ずしも登記が必要な訳ではありません。登記については当事者間で合意した内容を第三者や当事者の承継人(相続人など)に効力を及ぼすために必要ですが、内容が公示され第三者が閲覧できてしまうというデメリットとトレードオフになります。
結婚しようとするお相手が資産を勝手に処分できないように管理・運用することで対応できるのかをよく検討したうえで、登記の要否を判断する必要があります。
Q.夫婦財産契約はどのような取り決めであっても内容にすることができますか?
以下の法定財産制(民法760条~762条)に関する事項のほか、これ以外の結婚生活に関連した様々な事項を定めることができます。
●婚姻費用の分担(760条)
●日常家事債務の連帯責任(761条)
●夫婦間の財産の帰属(762条)
ただし、以下のような内容が含まれると、契約自体が無効と判断されるおそれがありますので注意が必要です。
●同居・扶助の義務を否定する条項
●著しく男女不平等を是認する条項
●日常家事債務の連帯責任を否定する条項
●一方の申し出により自由に離婚できる旨の条項
●財産分与額を不当に低く定める条項
以下、夫婦財産契約が無効と判断されたケースを紹介します。
婚姻前に締結した誓約書の「お互いにいずれか一方が自由に申し出ることによって、いつでも離婚することができる。」との規定について、裁判所は、「本件誓約書は、定められた金員を支払えば、原被告のいずれからも離婚を申し出ることができ、他方、その申し出があれば、当然相手方が協議離婚に応じなければならないとする趣旨と解される。そうだとすると、本件誓約書は、将来、離婚という身分関係を金員の支払によって決するものと解されるから、公序良俗に反し、無効と解すべきである。」と判断しました。
また、裁判所は、仮に無効ではないとの前提に立ったとしても、婚姻前に締結した誓約書の財産分与の規定に「協議離婚をした場合は」との文言が用いられていた点について、誓約書作成前にアメリカのprenuptial agreement(婚前契約書)作成を提案するほどであったことなどから、協議離婚と裁判離婚の区別を付けられる知識を有していたこと等を根拠として、裁判離婚における誓約書の効力を否定しました。
「本件誓約書は、文言上、協議離婚しか想定されておらず、また、その草稿を作成したaq(注:当時、原告(夫)の部下であった者)も、協議離婚と裁判離婚等のその他の離婚を区別して作成したものであること、米国の婚前契約書のことまで熟知していた原告が日本の裁判離婚と協議離婚の区別がつかなかったとは到底考えがたいことを考慮すると、本件誓約書が、協議離婚の場合しか想定していないことは明らかである。」「よって、その余の点について判断するまでもなく、本件誓約書は、裁判離婚が問題となっている本件においては、効力はない。」などと判示されています。