婚姻中に行われる夫婦間の契約は、婚姻中原則として取消可能状態にあるため、夫婦間の取り決めについて契約として拘束力を持たせるためには、入籍日よりも前に契約を締結する必要があります。効力の有効性担保や保全の観点からは公正証書化することも重要です。公正証書化までのプロセスを見据えて、超特急で内容を決めていくにしても入籍日の1ヵ月前くらいからは着手しなければなりません(時期を逃すと夫婦財産契約としての効力が生じなくなる恐れがあります)。そこで、本連載では、富裕層や芸能人を中心に最近注目を集めている夫婦財産契約について、弁護士であり、プライベートバンカーライセンス(富裕層向けコンサルタント資格)を保有する岩崎総合法律事務所の岩崎隼人弁護士がQ&A形式で解説していきます。

結婚前に離婚後のことも決めておく「夫婦財産契約」

Q.そもそも「夫婦財産契約」とは何ですか?

「夫婦財産契約」は、結婚しようとする夫婦が結婚する前にする契約であり、家事の分担や財産の管理方法、離婚後の財産分与についてなどを定めるものです。

 

婚姻中に行われる夫婦間の契約は、婚姻中原則として取消可能状態にあります(夫婦間の契約取消権)。夫婦財産契約を婚姻前に適式に取り交わすことによって、夫婦間の財産について取消可能状態になることなく取り決めできます。「婚前契約」や「プレナップ」と呼ばれることもあります。

 

~夫婦財産契約についてのトレンド~

2019年11月、女優の深田恭子さんが不動産会社社長と婚前契約書を取り交わしたと一部メディアで報じられました。契約書は、弁護士をとおして作成され、破局時に「財産を請求しない」などといった文言が含まれたようです。

欧米では夫婦財産契約のことを「プレナップ(prenup)」といい、ハリウッドセレブや富裕層などを中心に普及しています。日本では民法上の制度として「夫婦財産契約」制度が設けられているものの、これまであまり利用されることはありませんでした。

しかし近年、日本でも芸能人や富裕層を中心に婚前契約が注目を集めているといえます。

 

結婚なんて、きれいごとだけじゃないから…(※画像はイメージです/PIXTA)
結婚なんて、きれいごとだけじゃないから…(※画像はイメージです/PIXTA)

 

Q.離婚する際の「財産分与」を結婚前に話し合う必要があるのですか?

資産が多い夫婦の場合、離婚時の財産分与において、以下の4つの問題が深刻化するケースが多く見受けられます。

 

① 資産の多さや特殊な取得方法・資産の特性ゆえに、どこまでが財産分与の対象になるのか

② 金融商品・不動産など、対象財産の金銭価値算定に評価を要する場合の適切な評価方法は何か

③ 夫婦それぞれの能力・経歴に照らした適切な分与割合は何か

④ 金融商品・不動産などを分与する場合に、当該財産の処分方法をどのように想定するのが適切か

 

結婚前に夫婦財産契約を締結し、上記の内容を契約において事前に明確にすることで、財産分与の問題が及ぼす経済的打撃を最小限にとどめ、かつその影響を予測の範囲内に収めることができます。

 

なお、資産の多い夫婦が離婚する場合の財産分与については、こちらの連載をご覧ください。

 

Q.結婚するときに離婚の話をするのはかなりハードですが、どうしたらいいのでしょうか?

夫婦財産契約はその性質上、万一の離婚を見据えた内容でもあります。このため、これから夫婦になろうとする者同士にとってはその内容の取り決めに心理的困難が生じることがあるのはある意味当然です。

 

そのような場合に備えて、穏便かつ自然な交渉をすすめるための後方支援を受けることや、場合によっては中立的な第三者を介して取り決めるなどといったサポートを受けることも有益です。

 

とはいえ、そもそも夫婦財産契約は、これから結婚される企業経営者・富裕層の方にとって、資産防衛の観点から必須の契約なものですし、また、夫婦財産契約には離婚後の取り決めだけでなく、婚姻中の生活や、一方が先立たれた場合のケアについてなど、お互いを想い合った様々な約束を盛り込むことが可能です。

 

安心して素敵な結婚生活を送るために重要な役割を果たすものであるということをお二人が良く認識することが、なによりの出発点かもしれません。

 

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